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〝何でもいいからディープな体験がしたいなぁ〟〝先進国の分かりきった感動とか、もういいや〟と思って訪れたインドネシア。「ディープな体験がしたい!」という願いは旅の神様に聞き入れられたようで、ジャワ島の安宿で一晩中「もしもし?」とドアをノックされ続ける体験をしました。今回は、夏を先取りして「恐怖のもしもし体験」です。
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カレンダーを見つめていたら、まるまる1週間お休みがとれることに気が付きました。「どこかに行きたい!」グアムやサイパンは2泊や3泊で足りるからパス。ザ観光地はあまり好きじゃないし…ね。何かもっとディープな地に行きたい。
その時ふと思い出したのが、インドネシアに移住した日本人夫婦のブログでした。その若い夫婦は、日本で貯めたお金を(当時)金利が高いインドネシアの銀行に預け、その利息で生活をするという夢のような暮らしを送っていました。
まだまだ日本人が少ないインドネシアで日系グループにも入らず、都会にも出ず、小さな町でのんびりとディープなインドネシア生活を送っていた彼らのブログは、ビックリするような出来事の連続で彩られていました。
「インドネシア政府は、忍者作戦を決行すると正式発表。日本人の僕は顎が外れるほど驚いた」とか「呪いの人形をもらってしまった」とか「ビザを取得するための泣き落とし作戦を思いついた」とか。
東南アジアの優等生として知られるマレーシアやシンガポールにほど近いのに、21世紀とは思えない風習や政策がある国、それがインドネシア。私も、こんなディープな体験がしてみたいな。あ、インドネシアに行こう。
インドネシアでは、バリ島にのみに滞在する予定でした。「神々の住まう島バリ」で、のんびり暮らすように旅をする。しかし、バリ島・ウブドにある旅行会社で、バリ⇔ジャワ島の往復飛行機+世界遺産にも登録されている「ボロブドゥール寺院」の観光がセットで1万円という看板を見つけてしまったのです。
その安さに釣られ、予定外にバリ島⇔ジャワ島と行き来することになった私。手持ちのお金は少なく、100円単位で節約したい懐事情がありました。
そしてジャワ島は、バリ島に比べ物価が高い場所でした。お金を節約するなら、宿から。バックパッカーの鉄則です。少しでも安い宿を探して路地裏を歩き、たどり着いた宿で恐怖体験をすることになったのです。
首都ジョグジャカルタがあるジャワ島の一角で、私は震えていました。さっきから誰かが部屋の扉をノックしては「もしもし?もしもし?」と二言だけつぶやき、去っていくのです。
外は真っ暗。部屋の中も真っ暗。ドミトリータイプの部屋を貸し切りで使用しているので部屋には私以外、誰もいません。どうしよう、存在感を示すために電気をつけるべき?いや刺激するようなことは止めよう。
とりあえずベッドを降りて、扉の鍵を確認。しっかり鍵は閉まっている。でもこの木製の扉、本気になったら簡単に破れるんじゃないの?
ベッドに戻り扉を見つめていると、また始まりました「もしもし?もしもし?」そして男の人の笑い声。 もしかしてお酒飲んでる?いや薬中?怖い、どうしよう。とりあえず寝巻とはいえ肌を露出した姿はよくない。手持ちの服を全部、着よう。
手持ちの服を全部きた私は、身を隠す場所を探して部屋をウロウロしだしました。
身を隠せる場所は?この部屋はドミトリー。だだっ広いコンクリート打ちっぱなしの空間には、ベッドが並んでいるだけでタンス一つなく身を隠せる場所はどこにもありません。
もし立てこもるとしたらシャワー室。でも、シャワー質の扉は、部屋の扉よりもっと簡素。ペラペラの板で、女の私だって素手で割れそうです。そんなところに立てこもってどうなるの?
部屋にある唯一の窓からは、限りなく赤い色に近いオレンジの灯りがチラチラ入り込んできました。窓は鉄格子がはめ込んであるため、まさかの時の脱出口としては使えません。
部屋にはフロントに通じる電話が一台。でも、なぜかコードが繋がっていませんでした。WIFIが飛んでいないから、スマホで助けを呼ぶこともできない。 あれ、これは絶体絶命?
八方塞がりとなった私の口からは、「宿選びを失敗した」という言葉が自然に漏れていました。
宿のスタッフはとてもフレンドリーだったし、身なりもきちんとしていました。狡猾な笑みを隠す様子もなく、「この少し先に親族が経営するカフェもあるよ」と話をしてくれた青年。あの話し方は、どこから見ても安宿を提供する気の良いスタッフだったのに。
部屋の中も見せてもらって、ちゃんとシャワーから水がでるのもチェックしたし、宿の周辺も見て周った。自分で「宿泊するのに問題はない!」と認定して宿泊した宿。 でもガイドブックに載っている安宿よりはるかに安い値段で、個室に泊まれるということは…そういうことなんだ。
「こんな場所に泊まってはいけなかったんだ。安宿にしたって最低限のランクから外れた宿に、日本人が女性が泊まってはいけない」
それにしても、この「もしもし?」はいつから始まったのか。初めは空耳かと思いました。あるいは聞き間違い?と自分を納得させようと思っていました。 日本人など私以外誰もいないのに。それどころかこの一帯は観光客がほとんどいない地区。普通に考えれば、日本語が聞こえてくるはずないのです。
でもベッドで熟睡していた私が起きてしまう程度に、「もしもし?」は繰り返されています。
闇夜に響く、コンコン。そして、続く「もしもし?もしもし?」最後はクスクスという笑い声。
きた!また「もしもし」。一体誰が、何のために?こんなことを?インドネシアなのに日本語の幽霊?こういう時はどうしたら良いの?
3階建てのシンプルな建物には「HOTEL」と大きな看板が掲げられてはいるものの「日本人の観光客はまず来ないだろうな」と思わせる雰囲気がありました。 泊まるとしたら大きなリュックを背負った欧米人の単独バックパッカーかな。ワイワイみんなで騒いだり飲んだり、そんな雰囲気が一切感じられない建物でした。
その予感は、宿に入ってすぐに確信へと変わりました。外国人の観光客がいる様子はなく、どちらかというと地元の人が利用する地元のホテル。そして、スタッフはみな親切です。
「お部屋を見せてもらえますか?」 「一人?」 「はい、一人です」 「OK。ついておいでよ」
若い20歳そこそこの青年が親切に部屋を案内してくれました。
「日本人の女性なら一人部屋がいいでしょ? いま個室はいっぱいだから、ドミトリーでよければ貸し切りにしてあげる。」
そうやって案内してもらった部屋で、私は今恐怖に震えています。
コンコン。もしもし?もしもし?クスクスッ。そして何人かの男の人の気配。
「こんな広い部屋いいの?」 「もちろんだよ。でもこんなシンプルな宿で君はいいの?大丈夫?」 「全然、気にしないよ。この部屋にするね」
断られると思っていたのか、宿のスタッフは私が宿泊することに驚いているようでした。
コンコン。もしもし?もしもし?クスクスッ。聞き取れない、現地語。ザワザワ…
「あ、君のこの部屋の目の前のテラス。ここに今夜10人位、人が泊まるけどいい?」 「テラスって、この屋根もないこのスペースに人が?泊まるの?」 「そうなんだ、宗教上のお祭り(巡礼)があって、男ばかり10人ほどここに泊まるんだ。扉のすぐ目の前だけど、いい? 団体だから少しうるさくなるかも」
……あっ
やっと思い出しました。私の部屋の目の前に続くテラスには、団体客が雑魚寝しているのだと。
部屋を出入りする間、一度も彼らの姿を見かけなかったため、すっかり忘れていました。
夜中から続く謎の「もしもし」は、彼らが私をからかっていた声だったのです。そう判明すると、聞こえてくる音も違ってきます。
「もしもし?もしもし?」
もしもしのイントネーションは、外国人が聞いた言葉を真似するあの感じそのものでした。そして笑い声。「次はお前が行けよ」「イヤだよお前がやれよ」とまるで小学生のような会話でも繰り広げられているのでしょうか。
また別の人の声で「もしもし?」が続きます。そして笑い声。爆笑したいのに、笑いをこらえているのかな。
物凄く控え目な「コンコン」というノック音もしかり。最初はハッキリしない軽い音に恐怖を感じましたが、今ではいたずら遊びをする子どものような感覚でノックしていたから、小さな音しか出せなかったのだと分かります。怖さは激減し、何だか全てが可愛らしくなってきてしまいました。
きっと宿のスタッフが「ここに日本人が泊まっているよ」と教えたのでしょう。 面白がった誰かが知っている日本語「もしもし」を口にして、そのうちに全員が楽しくなってしまって順番に、何度も扉をノックして「もしもし」と囁いてみることにした。
〝箸が転んでもおかしい年頃〟ということわざがあります。(正確には女性の10代後半を指し示しますが)そんな言葉がぴったりな年代・出来事だと思いました。 ただ楽しそう。時々「もちもち?」と日本語を間違えたりもしています。
夜が明け空が次第に白くなりはじめた頃、笑い疲れた彼らは眠ってしまったのか、ノック音も「もしもし」音も聞こえなくなりました。
翌朝、少し緊張して扉をあけた私の前には、何もないテラスが広がっていました。あんな夜更けまで遊んでいたというのに、彼らは祭り(巡礼)に出かけてしまったようです。 天井もない吹きっさらしの空間、冷たい石の床。こんな環境に布一枚だけひいて眠り、早朝から活動するなんて、どれだけ彼らはたくましいんでしょう。
それにしても、ディープな体験がしたくてインドネシアに来ましたが、まさかこんな体験ができるとは!安宿に泊まるのは悪いことじゃない。でも最低限のラインは守らなきゃいけない、自分を過信してはいけない、そんな当たり前の事に気付かせてもらいました。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。 マイナーな国をメインに、世界中を旅する。 旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。 出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。 公式HP:Lucia Travel
〝何でもいいからディープな体験がしたいなぁ〟〝先進国の分かりきった感動とか、もういいや〟と思って訪れたインドネシア。「ディープな体験がしたい!」という願いは旅の神様に聞き入れられたようで、ジャワ島の安宿で一晩中「もしもし?」とドアをノックされ続ける体験をしました。今回は、夏を先取りして「恐怖のもしもし体験」です。
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目次
カレンダーを見つめていたら、まるまる1週間お休みがとれることに気が付きました。「どこかに行きたい!」グアムやサイパンは2泊や3泊で足りるからパス。ザ観光地はあまり好きじゃないし…ね。何かもっとディープな地に行きたい。
忍者作戦に呪いの人形?爆笑の移住者ブログ
その時ふと思い出したのが、インドネシアに移住した日本人夫婦のブログでした。その若い夫婦は、日本で貯めたお金を(当時)金利が高いインドネシアの銀行に預け、その利息で生活をするという夢のような暮らしを送っていました。
まだまだ日本人が少ないインドネシアで日系グループにも入らず、都会にも出ず、小さな町でのんびりとディープなインドネシア生活を送っていた彼らのブログは、ビックリするような出来事の連続で彩られていました。
「インドネシア政府は、忍者作戦を決行すると正式発表。日本人の僕は顎が外れるほど驚いた」とか「呪いの人形をもらってしまった」とか「ビザを取得するための泣き落とし作戦を思いついた」とか。
東南アジアの優等生として知られるマレーシアやシンガポールにほど近いのに、21世紀とは思えない風習や政策がある国、それがインドネシア。私も、こんなディープな体験がしてみたいな。あ、インドネシアに行こう。
100円単位の節約を追い求めた宿選び
インドネシアでは、バリ島にのみに滞在する予定でした。「神々の住まう島バリ」で、のんびり暮らすように旅をする。しかし、バリ島・ウブドにある旅行会社で、バリ⇔ジャワ島の往復飛行機+世界遺産にも登録されている「ボロブドゥール寺院」の観光がセットで1万円という看板を見つけてしまったのです。
その安さに釣られ、予定外にバリ島⇔ジャワ島と行き来することになった私。手持ちのお金は少なく、100円単位で節約したい懐事情がありました。
そしてジャワ島は、バリ島に比べ物価が高い場所でした。お金を節約するなら、宿から。バックパッカーの鉄則です。少しでも安い宿を探して路地裏を歩き、たどり着いた宿で恐怖体験をすることになったのです。
真夜中に始まった恐怖のノック
首都ジョグジャカルタがあるジャワ島の一角で、私は震えていました。さっきから誰かが部屋の扉をノックしては「もしもし?もしもし?」と二言だけつぶやき、去っていくのです。
外は真っ暗。部屋の中も真っ暗。ドミトリータイプの部屋を貸し切りで使用しているので部屋には私以外、誰もいません。どうしよう、存在感を示すために電気をつけるべき?いや刺激するようなことは止めよう。
とりあえずベッドを降りて、扉の鍵を確認。しっかり鍵は閉まっている。でもこの木製の扉、本気になったら簡単に破れるんじゃないの?
ベッドに戻り扉を見つめていると、また始まりました「もしもし?もしもし?」そして男の人の笑い声。
もしかしてお酒飲んでる?いや薬中?怖い、どうしよう。とりあえず寝巻とはいえ肌を露出した姿はよくない。手持ちの服を全部、着よう。
絶体絶命のピンチ
手持ちの服を全部きた私は、身を隠す場所を探して部屋をウロウロしだしました。
身を隠せる場所は?この部屋はドミトリー。だだっ広いコンクリート打ちっぱなしの空間には、ベッドが並んでいるだけでタンス一つなく身を隠せる場所はどこにもありません。
もし立てこもるとしたらシャワー室。でも、シャワー質の扉は、部屋の扉よりもっと簡素。ペラペラの板で、女の私だって素手で割れそうです。そんなところに立てこもってどうなるの?
部屋にある唯一の窓からは、限りなく赤い色に近いオレンジの灯りがチラチラ入り込んできました。窓は鉄格子がはめ込んであるため、まさかの時の脱出口としては使えません。
部屋にはフロントに通じる電話が一台。でも、なぜかコードが繋がっていませんでした。WIFIが飛んでいないから、スマホで助けを呼ぶこともできない。
あれ、これは絶体絶命?
規格外の安宿に泊まるリスクを実感
八方塞がりとなった私の口からは、「宿選びを失敗した」という言葉が自然に漏れていました。
宿のスタッフはとてもフレンドリーだったし、身なりもきちんとしていました。狡猾な笑みを隠す様子もなく、「この少し先に親族が経営するカフェもあるよ」と話をしてくれた青年。あの話し方は、どこから見ても安宿を提供する気の良いスタッフだったのに。
部屋の中も見せてもらって、ちゃんとシャワーから水がでるのもチェックしたし、宿の周辺も見て周った。自分で「宿泊するのに問題はない!」と認定して宿泊した宿。
でもガイドブックに載っている安宿よりはるかに安い値段で、個室に泊まれるということは…そういうことなんだ。
「こんな場所に泊まってはいけなかったんだ。安宿にしたって最低限のランクから外れた宿に、日本人が女性が泊まってはいけない」
なぜ?日本語でささやくの?
それにしても、この「もしもし?」はいつから始まったのか。初めは空耳かと思いました。あるいは聞き間違い?と自分を納得させようと思っていました。
日本人など私以外誰もいないのに。それどころかこの一帯は観光客がほとんどいない地区。普通に考えれば、日本語が聞こえてくるはずないのです。
でもベッドで熟睡していた私が起きてしまう程度に、「もしもし?」は繰り返されています。
闇夜に響く、コンコン。そして、続く「もしもし?もしもし?」最後はクスクスという笑い声。
きた!また「もしもし」。一体誰が、何のために?こんなことを?インドネシアなのに日本語の幽霊?こういう時はどうしたら良いの?
この宿に泊まる外国人観光客はゼロ?
3階建てのシンプルな建物には「HOTEL」と大きな看板が掲げられてはいるものの「日本人の観光客はまず来ないだろうな」と思わせる雰囲気がありました。
泊まるとしたら大きなリュックを背負った欧米人の単独バックパッカーかな。ワイワイみんなで騒いだり飲んだり、そんな雰囲気が一切感じられない建物でした。
その予感は、宿に入ってすぐに確信へと変わりました。外国人の観光客がいる様子はなく、どちらかというと地元の人が利用する地元のホテル。そして、スタッフはみな親切です。
「お部屋を見せてもらえますか?」
「一人?」
「はい、一人です」
「OK。ついておいでよ」
若い20歳そこそこの青年が親切に部屋を案内してくれました。
「日本人の女性なら一人部屋がいいでしょ? いま個室はいっぱいだから、ドミトリーでよければ貸し切りにしてあげる。」
そうやって案内してもらった部屋で、私は今恐怖に震えています。
コンコン。もしもし?もしもし?クスクスッ。そして何人かの男の人の気配。
「こんな広い部屋いいの?」
「もちろんだよ。でもこんなシンプルな宿で君はいいの?大丈夫?」
「全然、気にしないよ。この部屋にするね」
断られると思っていたのか、宿のスタッフは私が宿泊することに驚いているようでした。
コンコン。もしもし?もしもし?クスクスッ。聞き取れない、現地語。ザワザワ…
「あ、君のこの部屋の目の前のテラス。ここに今夜10人位、人が泊まるけどいい?」
「テラスって、この屋根もないこのスペースに人が?泊まるの?」
「そうなんだ、宗教上のお祭り(巡礼)があって、男ばかり10人ほどここに泊まるんだ。扉のすぐ目の前だけど、いい? 団体だから少しうるさくなるかも」
……あっ
謎の声の正体
やっと思い出しました。私の部屋の目の前に続くテラスには、団体客が雑魚寝しているのだと。
部屋を出入りする間、一度も彼らの姿を見かけなかったため、すっかり忘れていました。
夜中から続く謎の「もしもし」は、彼らが私をからかっていた声だったのです。そう判明すると、聞こえてくる音も違ってきます。
「もしもし?もしもし?」
もしもしのイントネーションは、外国人が聞いた言葉を真似するあの感じそのものでした。そして笑い声。「次はお前が行けよ」「イヤだよお前がやれよ」とまるで小学生のような会話でも繰り広げられているのでしょうか。
また別の人の声で「もしもし?」が続きます。そして笑い声。爆笑したいのに、笑いをこらえているのかな。
物凄く控え目な「コンコン」というノック音もしかり。最初はハッキリしない軽い音に恐怖を感じましたが、今ではいたずら遊びをする子どものような感覚でノックしていたから、小さな音しか出せなかったのだと分かります。怖さは激減し、何だか全てが可愛らしくなってきてしまいました。
きっと宿のスタッフが「ここに日本人が泊まっているよ」と教えたのでしょう。
面白がった誰かが知っている日本語「もしもし」を口にして、そのうちに全員が楽しくなってしまって順番に、何度も扉をノックして「もしもし」と囁いてみることにした。
〝箸が転んでもおかしい年頃〟ということわざがあります。(正確には女性の10代後半を指し示しますが)そんな言葉がぴったりな年代・出来事だと思いました。
ただ楽しそう。時々「もちもち?」と日本語を間違えたりもしています。
夜が明け空が次第に白くなりはじめた頃、笑い疲れた彼らは眠ってしまったのか、ノック音も「もしもし」音も聞こえなくなりました。
翌朝、少し緊張して扉をあけた私の前には、何もないテラスが広がっていました。あんな夜更けまで遊んでいたというのに、彼らは祭り(巡礼)に出かけてしまったようです。
天井もない吹きっさらしの空間、冷たい石の床。こんな環境に布一枚だけひいて眠り、早朝から活動するなんて、どれだけ彼らはたくましいんでしょう。
それにしても、ディープな体験がしたくてインドネシアに来ましたが、まさかこんな体験ができるとは!安宿に泊まるのは悪いことじゃない。でも最低限のラインは守らなきゃいけない、自分を過信してはいけない、そんな当たり前の事に気付かせてもらいました。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel