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冬至は、一年で昼が最も短く、太陽の位置が最も南に偏る日。そして、一年の中で最も夜が長く、太陽の存在をいちだんと恋しく感じる日──それが「冬至(とうじ)」です。対照的に、最も昼が長くなる日は「夏至(げし)」と呼ばれます。
2025年の冬至は、日本では12月22日(月曜日)。冬至の日付は天文学的に決まり、12月21日になる年もあります。
冬至は、古くから“光が戻り始める節目”として大切にされ、季節の移ろいを知る大切な指標でした。今も、各地に文化的な行事や風習が残っています。日本では、ゆず湯やかぼちゃなど馴染み深い風習があります。一方、世界に目を向けてみると、冬の闇を照らす灯火の祭りや、太陽の復活を祈る儀式など、地域ごとに特色ある文化が受け継がれています。
一年の終わりに向かい、光と闇のバランスが切り替わっていくこの季節。冬至という日の意味に想いを寄せる人々の営みが世界各地に根づいているのです。今回は、冬至について紐解きながら、日本と世界、それぞれの風習や祈り、祭りの文化を旅してみましょう。
冬至は、北半球に暮らす私たちにとって、一年で最も昼が短くで、夜が最も長い日です。太陽の軌道が最も南寄りとなり、太陽高度が低くなるため地上に届く光のエネルギー量が減り、体感的にも寒さが深まります。「冬至」という語は「冬(季節)」と「至(極まる)」が合わさった言葉で、古代中国の暦では二十四節気の一つとして重要視されました。
陰陽思想では「陰(闇)が極まり、陽(光)へ転ずる」節目とされ、農耕のタイミングや年中行事の基準になってきた歴史があります。陰極まって陽となる――長い冬の途中に、ほんの少しだけ希望の灯がともるような言葉です。
私たちにとって冬至は、どこかあたたかい雰囲気があります。季節の香りを感じながら体をいたわる習慣が浸透しているからかもしれません。年末のあわただしさの手前の小さな節目。その過ごし方には、日本ならではの願いと知恵が隠れています。
最も有名な風習は、柚子湯です。柚子の果皮に含まれる「リモネン」という香り成分には、リラックス効果と血行を促す働きがあり、冷えてこわばった体をふわりと緩めてくれます。寒さで縮こまる心身を、ふわっと開いてくれるような香り。お風呂場に広がる柚子の黄色が、冬に差し込む光のようです。また、柑橘類に豊富なビタミンCは抗酸化作用をもち、食材としても冬の体調管理に役立つ成分です。昔ながらの薬湯として親しまれてきた背景には、こうした理にかなった理由があるのかもしれません。柚子湯の由来には諸説ありますが、柚子の香りで邪気を払い、身を清めるという意味のほか、冬至と「湯治(とうじ)」、柚子と「融通よくする」の語呂合わせから広まったとも言われています。冷えやすい季節に、香りと湯気で体を整える。その感覚は、現代のバスタイムともつながります。
冬至にかぼちゃ、と聞くと「夏野菜なのに、なぜ?」と思うかもしれません。実は、かぼちゃは長期保存が利くため、冬場のビタミン補給源として重宝されてきました。βカロテン、ビタミンC、食物繊維も豊富です。風邪で体調を崩しやすい時期には心強い存在です。地域によっては、かぼちゃを小豆と一緒に煮た「いとこ煮」を食べる風習も残っています。小豆の赤色には魔除けの意味があり、冬を越すための願いが込められてきました。「甘い」「やわらかい」「温かい」が揃う一皿は、身体だけでなく心もほっと緩ませてくれます。
冬至に運を付ける。「ん」のつく食材は、運気を呼び込む縁起物として愛されてきました。にんじん、れんこん、だいこん、うどん――かぼちゃも、地方によっては「なんきん」と呼ばれ、「ん」の重なる縁起の良い食材として親しまれてきました。
日常的な食材ばかりで、家族の食卓に取り入れやすいのも嬉しいところです。「冬至七種(ななくさ)」と呼ばれる、かぼちゃ・にんじん・れんこん・ぎんなん・きんかん・うどん・だいこんを組み合わせる地域もあります。日本人の「言葉遊び」と「縁起かつぎ」が、暮らしの知恵と結びついた例です。
ライフスタイルが変わり、四季の行事を忘れがちな今こそ、小さな“行事ごと”が暮らしに輪郭を与えてくれます。柚子を浮かべること。かぼちゃを煮ること。家族で鍋を囲む団らんの時間をもつこと。どれも大げさな準備はいりません。寒さでこわばった体をいたわり、疲れの出やすい年末に向けて気持ちを整える。冬至は、季節に寄り添う力を静かに取り戻す日でもあるのです。
古代の人々にとって、太陽は農耕や生活の基盤そのものでした。光が弱まり、昼が短くなる冬至は、不安と向き合う時期でもあります。だからこそ、多くの地域で「太陽が戻ってきてほしい」という気持ちが祈りへと結びつきました。火を灯す、赤い食べ物を囲む、歌や舞を奉げる――。地域や時代は違っても、冬の先にある光を見つめる想いは共通しています。
北欧では古くから冬至前後に「ユール」と呼ばれる祭りが行われてきました。ユールは、火と宴で太陽の再生を祝う儀式で、薪を焚く習慣(ユールログ)や長夜を照らす松明・蝋燭などが伝承されています。ユールは、やがてキリスト教の祭礼と混ざり合い、現在のクリスマス文化にも影響を与えています。暖炉の火やキャンドルで家を照らすのは、暗い冬に太陽の力を呼び戻す象徴。暗い季節に家の中を温め、光を大切にする感覚は、北欧で大切にされる「ヒュッゲ(居心地のよさ)」の精神とも響きあいます。
古代ローマでは、神サトゥルヌスに捧げる祭「サトゥルナリア」が12月中旬から下旬に盛大に行われました。市民は饗宴を開き、贈り物を交換し、仮装や身分の逆転といった日常とは異なる祝祭的な振る舞いを楽しみました。いつもとは違ったのびのびとした時間は、暗い季節に心を温める役割を果たしていたのでしょう。こうした晩年ローマの冬の習俗は、後世の冬期行事やクリスマス慣習に何らかの形で影響を与えたと考えられています。
ストーンヘンジは、古代に築かれた石の環状遺跡で、太陽の動きに基づいて設計されたと考えられています。特に夏至の朝日が重視された配置になっており、冬至には日没の方角(南西)と結びつく軸が設けられています。現代でも、夏至や冬至(ソルスティス)には多くの人々が訪れ、太陽光と石の位置関係を静かに見守ります。石の間から差し込む光は、古代の人々にとって神秘的な瞬間だったことでしょう。太陽の軌跡を見つめながら、科学と信仰が交差する――そんな特別な場所です。
中国では冬至(冬至節)が重要な節目とされ、家族が集まって食事をする習慣があります。地域によって習慣はさまざまですが、料理は地域によって異なり、南方では湯圓(タンユアン)というもち米団子を温かい汁で食べ、北方では餃子を食べる風習が伝わっています。いずれも体を温める食事を通して健康と円満を祈ります。陰陽思想では「陰の極まりから陽へ転ずる日」と位置づけられ、暦上の節目としても重視されてきました。家族の絆を深める食文化が、いまも息づいています。
韓国では冬至を「동지(ドンジ)」と呼び、小豆入りの粥(팥죽/パッチュク)を食べる風習があります。赤い小豆は古くから魔除けや邪気払いの意味を持つと考えられてきました。地域によっては、家の周囲に小豆粥を撒いて悪い気を払う風習もあったようです。パッチュクには白玉のような小さな餅が入っており、子どもは年齢の数だけ餅を食べる風習もあり、家族の健康を願う行事として受け継がれています。寒い冬を乗り切るための知恵と、家族を思う文化が重なって続いています。
イランや中央アジアの一部では、冬至の夜を「ヤルダの夜」として祝います。ヤルダは「誕生」を意味し、家族が集まりスイカやザクロなど赤い果物や乾果を囲んで夜通し語り、詩を朗読する習慣があります。特にザクロの鮮やかな赤は象徴的です。赤は太陽や生命、夜明けの象徴とされ、未来の健康を祈る意味があると言われています。あたたかい食べ物に目が向く季節ですが、食卓の色選びにも物語が存在していることに気づかされます。厳しい自然環境のなかで、寄り添いあう人々の繋がりが大切にされてきた祝い方です。
インドでは、冬至に近い時期に「マカラ・サンクランティ」という祝祭があります。太陽が山羊座(マカラ)に入る日を祝うもので、太陽の移動に合わせて、概ね毎年1月14日(閏年は15日)に行われる行事です。農耕文化とも結びつき、収穫祭としても親しまれています。地域によっては凧揚げや甘い米菓を楽しみ、豊作や家族の幸福を祈願する習わしも見られます。冬から春への移り変わりを祝いながら、次の季節への豊作への願いを込めるのです。天文学的には冬至とは別の節目ですが、季節の転換を祝う点で共通する部分があるといえるでしょう。
南半球では、北半球と季節が逆転します。北半球が冬至を迎える頃、南半球では夏至となります。そして、南半球の冬至は6月に訪れます。気候帯が幅広く、地域によって季節感も大きく違うのが特徴です。都市部ではイベント化しながらも、伝統文化の中では太陽への信仰や自然崇拝が根づいています。昼が短く、気温が下がる時期。太陽の復活を願う心は、こちらでも響いています。
「フェスタ・ジュニーナ」は、ブラジルで6月に行われる祭りです。ポルトガルから伝わったカトリックの聖人祭にルーツをもち、収穫祭と結びついて国民的イベントへと発展しました。参加者は田舎風の衣装を身に着け、ダンスや焚き火、とうもろこし料理を楽しみます。ブラジルの冬は日本ほど厳しくない地域も多く、明るくにぎやかに季節を迎える雰囲気が特徴的です。各地で開催され、コミュニティをつなぐ大切な行事になっています。
南米アンデス地域では、「インティ・ライミ」が冬至に行われる祭礼として知られています。インティ・ライミは「太陽の祭り」を意味し、古代インカ帝国から受け継がれてきた宗教行事です。太陽神インティを讃え、一年の実りへの感謝と、これから迎える新しい年の豊作を祈る日でもあります。ペルーのクスコでは、石造りの遺跡が残る街を舞台に、壮麗な儀式が展開されます。色鮮やかな衣装に身を包んだ人々が列をなし、伝統楽器の音色が空高く響き、舞踊がリズムに合わせて繰り広げられる光景は圧巻です。観光客も地元の人々と共にその熱気に包まれ、太陽を中心とした古代の世界観を追体験するようなひとときを味わえるでしょう。
南極の観測基地では、6月の冬至を「ミッドウィンター」として祝います。この時期の南極は、一日中太陽が昇らない「極夜」が続き、暗闇に包まれた過酷な環境です。研究者たちにとって、この日は心の支えとなる大切な節目であり、特別な料理やメッセージの交換によって仲間同士の結束を確かめ合います。太陽が見えない環境だからこそ、光の戻りを待ち望む気持ちはひときわ強くなるのです。
冬至は、一年のうちで最も昼が短く、太陽の力が弱まる日とされています。古くから多くの地域で「陰が極まり、陽へと転ずる日」と捉えられ、暦のうえでも大きな節目。そのため占いや風水の世界では、運気の流れが切り替わる転換点として扱われてきました。暗さのピークを越え、少しずつ光が戻る――その自然のリズムこそが、前向きな象徴と重ねられたのです。
陰陽思想では、エネルギーは一定の状態にとどまらず、極まると反転すると考えられています。冬至は、その“陰”が最高潮に達する日。ここから陽の気が少しずつ戻り、季節は春へ向かって動きはじめます。こうした自然観が、古来から「新しいスタート」「悪い流れのリセット」として、多くの国の文化に受け継がれています。湯につかる、赤い食べ物を食べる、家を整える――それらは心と身体を温め、不安や疲れを静かに鎮めるための知恵でもあります。悪いことが続いたと感じたとき。焦りや不安に包まれる日が続いたとき。冬至は、そっと背中に手を添えてくれる存在なのかもしれません。
冬至は、年末の忙しさが本格化する前の“小休止”のような立ち位置でもあります。寒さによる疲労や、長く続く暗さからくる気持ちの揺らぎ。そうしたものを整えるタイミングとして、保温・睡眠・食事を見直すのにも適しています。新しい年を迎える支度の前に、まず自分をいたわる――そんなメッセージがこめられているようにも思えます。
民俗文化や手仕事をテーマに展開するアミナコレクションは、冬至の日に創業した企業として知られています。陰が極まり、陽へと歩み出す節目に掲げられた創業理念「WALK WITH THE SUN」には、自然とともに歩む人間の心を見つめる精神が息づいています。
関連記事【世田谷ボロ市】チャイハネ 51年目の出店
冬至は、古くから世界中の人びとが太陽の復活と未来の健康を願い、家族の絆を確かめてきた節目です。長い夜は、人を寄り合わせ、語り合う理由になるのでしょう。闇が深まる季節には、気持ちが沈むこともあります。でも、その先に差し込む光は、暗闇が深いほどくっきりと見えるものです。
柚子を浮かべた湯船に身をあずけ、かぼちゃの甘みを噛みしめる夜。世界のどこかで、同じ光を願う誰かがいる——そんなつながりを感じられるのも、冬至の魅力なのかもしれません。今年の冬至は、小さな灯りをともしてみませんか。暗闇の向こうに光がある――2025年の冬至が、あなたにとってあたたかな再出発の日になりますように。
冬至と密接な関係があるクリスマスについて▼
今年の冬至が、みなさんにとって素敵な日となりますように▼
冬至は、一年で昼が最も短く、太陽の位置が最も南に偏る日。
そして、一年の中で最も夜が長く、太陽の存在をいちだんと恋しく感じる日──それが「冬至(とうじ)」です。対照的に、最も昼が長くなる日は「夏至(げし)」と呼ばれます。
2025年の冬至は、日本では12月22日(月曜日)。冬至の日付は天文学的に決まり、12月21日になる年もあります。
冬至は、古くから“光が戻り始める節目”として大切にされ、季節の移ろいを知る大切な指標でした。今も、各地に文化的な行事や風習が残っています。
日本では、ゆず湯やかぼちゃなど馴染み深い風習があります。一方、世界に目を向けてみると、冬の闇を照らす灯火の祭りや、太陽の復活を祈る儀式など、地域ごとに特色ある文化が受け継がれています。
一年の終わりに向かい、光と闇のバランスが切り替わっていくこの季節。冬至という日の意味に想いを寄せる人々の営みが世界各地に根づいているのです。
今回は、冬至について紐解きながら、日本と世界、それぞれの風習や祈り、祭りの文化を旅してみましょう。
目次
冬至とは? その意味と由来
冬至は、北半球に暮らす私たちにとって、一年で最も昼が短くで、夜が最も長い日です。太陽の軌道が最も南寄りとなり、太陽高度が低くなるため地上に届く光のエネルギー量が減り、体感的にも寒さが深まります。
「冬至」という語は「冬(季節)」と「至(極まる)」が合わさった言葉で、古代中国の暦では二十四節気の一つとして重要視されました。
陰陽思想では「陰(闇)が極まり、陽(光)へ転ずる」節目とされ、農耕のタイミングや年中行事の基準になってきた歴史があります。
陰極まって陽となる――長い冬の途中に、ほんの少しだけ希望の灯がともるような言葉です。
日本の冬至にまつわる風習
私たちにとって冬至は、どこかあたたかい雰囲気があります。季節の香りを感じながら体をいたわる習慣が浸透しているからかもしれません。
年末のあわただしさの手前の小さな節目。その過ごし方には、日本ならではの願いと知恵が隠れています。
柚子湯に入る
最も有名な風習は、柚子湯です。
柚子の果皮に含まれる「リモネン」という香り成分には、リラックス効果と血行を促す働きがあり、冷えてこわばった体をふわりと緩めてくれます。
寒さで縮こまる心身を、ふわっと開いてくれるような香り。お風呂場に広がる柚子の黄色が、冬に差し込む光のようです。
また、柑橘類に豊富なビタミンCは抗酸化作用をもち、食材としても冬の体調管理に役立つ成分です。
昔ながらの薬湯として親しまれてきた背景には、こうした理にかなった理由があるのかもしれません。
柚子湯の由来には諸説ありますが、柚子の香りで邪気を払い、身を清めるという意味のほか、冬至と「湯治(とうじ)」、柚子と「融通よくする」の語呂合わせから広まったとも言われています。
冷えやすい季節に、香りと湯気で体を整える。その感覚は、現代のバスタイムともつながります。
かぼちゃを食べる
冬至にかぼちゃ、と聞くと「夏野菜なのに、なぜ?」と思うかもしれません。
実は、かぼちゃは長期保存が利くため、冬場のビタミン補給源として重宝されてきました。βカロテン、ビタミンC、食物繊維も豊富です。風邪で体調を崩しやすい時期には心強い存在です。
地域によっては、かぼちゃを小豆と一緒に煮た「いとこ煮」を食べる風習も残っています。小豆の赤色には魔除けの意味があり、冬を越すための願いが込められてきました。
「甘い」「やわらかい」「温かい」が揃う一皿は、身体だけでなく心もほっと緩ませてくれます。
「ん」がつく食べ物を食べる
冬至に運を付ける。「ん」のつく食材は、運気を呼び込む縁起物として愛されてきました。にんじん、れんこん、だいこん、うどん――かぼちゃも、地方によっては「なんきん」と呼ばれ、「ん」の重なる縁起の良い食材として親しまれてきました。
日常的な食材ばかりで、家族の食卓に取り入れやすいのも嬉しいところです。
「冬至七種(ななくさ)」と呼ばれる、かぼちゃ・にんじん・れんこん・ぎんなん・きんかん・うどん・だいこんを組み合わせる地域もあります。
日本人の「言葉遊び」と「縁起かつぎ」が、暮らしの知恵と結びついた例です。
現代のくらしと冬至
ライフスタイルが変わり、四季の行事を忘れがちな今こそ、小さな“行事ごと”が暮らしに輪郭を与えてくれます。
柚子を浮かべること。かぼちゃを煮ること。家族で鍋を囲む団らんの時間をもつこと。どれも大げさな準備はいりません。
寒さでこわばった体をいたわり、疲れの出やすい年末に向けて気持ちを整える。冬至は、季節に寄り添う力を静かに取り戻す日でもあるのです。
世界の冬至:北半球編
古代の人々にとって、太陽は農耕や生活の基盤そのものでした。
光が弱まり、昼が短くなる冬至は、不安と向き合う時期でもあります。だからこそ、多くの地域で「太陽が戻ってきてほしい」という気持ちが祈りへと結びつきました。
火を灯す、赤い食べ物を囲む、歌や舞を奉げる――。
地域や時代は違っても、冬の先にある光を見つめる想いは共通しています。
北欧:火と宴で太陽の再生を祝う冬至の儀式「ユール」
北欧では古くから冬至前後に「ユール」と呼ばれる祭りが行われてきました。ユールは、火と宴で太陽の再生を祝う儀式で、薪を焚く習慣(ユールログ)や長夜を照らす松明・蝋燭などが伝承されています。
ユールは、やがてキリスト教の祭礼と混ざり合い、現在のクリスマス文化にも影響を与えています。
暖炉の火やキャンドルで家を照らすのは、暗い冬に太陽の力を呼び戻す象徴。暗い季節に家の中を温め、光を大切にする感覚は、北欧で大切にされる「ヒュッゲ(居心地のよさ)」の精神とも響きあいます。
古代ローマ:贈り物と饗宴が広がる冬至の祭礼「サトゥルナリア祭」
古代ローマでは、神サトゥルヌスに捧げる祭「サトゥルナリア」が12月中旬から下旬に盛大に行われました。
市民は饗宴を開き、贈り物を交換し、仮装や身分の逆転といった日常とは異なる祝祭的な振る舞いを楽しみました。いつもとは違ったのびのびとした時間は、暗い季節に心を温める役割を果たしていたのでしょう。
こうした晩年ローマの冬の習俗は、後世の冬期行事やクリスマス慣習に何らかの形で影響を与えたと考えられています。
イングランド:石の環に沈む光を見つめる冬至の聖地「ストーンヘンジ」
Public domain, via Wikimedia Commons
ストーンヘンジは、古代に築かれた石の環状遺跡で、太陽の動きに基づいて設計されたと考えられています。
特に夏至の朝日が重視された配置になっており、冬至には日没の方角(南西)と結びつく軸が設けられています。
現代でも、夏至や冬至(ソルスティス)には多くの人々が訪れ、太陽光と石の位置関係を静かに見守ります。
石の間から差し込む光は、古代の人々にとって神秘的な瞬間だったことでしょう。太陽の軌跡を見つめながら、科学と信仰が交差する――そんな特別な場所です。
中国:湯圓や餃子で陰が陽へ転じる「冬至節」の食文化
中国では冬至(冬至節)が重要な節目とされ、家族が集まって食事をする習慣があります。
地域によって習慣はさまざまですが、料理は地域によって異なり、南方では湯圓(タンユアン)というもち米団子を温かい汁で食べ、北方では餃子を食べる風習が伝わっています。
いずれも体を温める食事を通して健康と円満を祈ります。陰陽思想では「陰の極まりから陽へ転ずる日」と位置づけられ、暦上の節目としても重視されてきました。家族の絆を深める食文化が、いまも息づいています。
韓国:小豆粥で邪気を払う家族行事「トンジ(冬至)」
韓国では冬至を「동지(ドンジ)」と呼び、小豆入りの粥(팥죽/パッチュク)を食べる風習があります。
赤い小豆は古くから魔除けや邪気払いの意味を持つと考えられてきました。地域によっては、家の周囲に小豆粥を撒いて悪い気を払う風習もあったようです。
パッチュクには白玉のような小さな餅が入っており、子どもは年齢の数だけ餅を食べる風習もあり、家族の健康を願う行事として受け継がれています。寒い冬を乗り切るための知恵と、家族を思う文化が重なって続いています。
中央アジア・イラン:ザクロの赤で夜明けを待つ「ヤルダの夜(シャベ・ヤルダ)」
イランや中央アジアの一部では、冬至の夜を「ヤルダの夜」として祝います。ヤルダは「誕生」を意味し、家族が集まりスイカやザクロなど赤い果物や乾果を囲んで夜通し語り、詩を朗読する習慣があります。
特にザクロの鮮やかな赤は象徴的です。赤は太陽や生命、夜明けの象徴とされ、未来の健康を祈る意味があると言われています。
あたたかい食べ物に目が向く季節ですが、食卓の色選びにも物語が存在していることに気づかされます。厳しい自然環境のなかで、寄り添いあう人々の繋がりが大切にされてきた祝い方です。
インド:太陽が山羊座へ巡る季節の節目「マカラ・サンクランティ」
インドでは、冬至に近い時期に「マカラ・サンクランティ」という祝祭があります。太陽が山羊座(マカラ)に入る日を祝うもので、太陽の移動に合わせて、概ね毎年1月14日(閏年は15日)に行われる行事です。
農耕文化とも結びつき、収穫祭としても親しまれています。地域によっては凧揚げや甘い米菓を楽しみ、豊作や家族の幸福を祈願する習わしも見られます。冬から春への移り変わりを祝いながら、次の季節への豊作への願いを込めるのです。
天文学的には冬至とは別の節目ですが、季節の転換を祝う点で共通する部分があるといえるでしょう。
世界の冬至:南半球編
南半球では、北半球と季節が逆転します。
北半球が冬至を迎える頃、南半球では夏至となります。そして、南半球の冬至は6月に訪れます。
気候帯が幅広く、地域によって季節感も大きく違うのが特徴です。都市部ではイベント化しながらも、伝統文化の中では太陽への信仰や自然崇拝が根づいています。
昼が短く、気温が下がる時期。太陽の復活を願う心は、こちらでも響いています。
ブラジル:焚き火ととうもろこし料理で迎える季節の祭典「フェスタ・ジュニーナ」
CC BY-SA 2.0, via Wikimedia Commons
「フェスタ・ジュニーナ」は、ブラジルで6月に行われる祭りです。ポルトガルから伝わったカトリックの聖人祭にルーツをもち、収穫祭と結びついて国民的イベントへと発展しました。
参加者は田舎風の衣装を身に着け、ダンスや焚き火、とうもろこし料理を楽しみます。
ブラジルの冬は日本ほど厳しくない地域も多く、明るくにぎやかに季節を迎える雰囲気が特徴的です。
各地で開催され、コミュニティをつなぐ大切な行事になっています。
南米:太陽神インティに祈る壮麗な冬至の祭礼「インティ・ライミ」
CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
南米アンデス地域では、「インティ・ライミ」が冬至に行われる祭礼として知られています。
インティ・ライミは「太陽の祭り」を意味し、古代インカ帝国から受け継がれてきた宗教行事です。太陽神インティを讃え、一年の実りへの感謝と、これから迎える新しい年の豊作を祈る日でもあります。
ペルーのクスコでは、石造りの遺跡が残る街を舞台に、壮麗な儀式が展開されます。
色鮮やかな衣装に身を包んだ人々が列をなし、伝統楽器の音色が空高く響き、舞踊がリズムに合わせて繰り広げられる光景は圧巻です。観光客も地元の人々と共にその熱気に包まれ、太陽を中心とした古代の世界観を追体験するようなひとときを味わえるでしょう。
南極:極夜の闇に光を願う研究基地の冬至行事「ミッドウィンター祭」
南極の観測基地では、6月の冬至を「ミッドウィンター」として祝います。
この時期の南極は、一日中太陽が昇らない「極夜」が続き、暗闇に包まれた過酷な環境です。
研究者たちにとって、この日は心の支えとなる大切な節目であり、特別な料理やメッセージの交換によって仲間同士の結束を確かめ合います。太陽が見えない環境だからこそ、光の戻りを待ち望む気持ちはひときわ強くなるのです。
冬至は運気が上向く日?
冬至は、一年のうちで最も昼が短く、太陽の力が弱まる日とされています。古くから多くの地域で「陰が極まり、陽へと転ずる日」と捉えられ、暦のうえでも大きな節目。そのため占いや風水の世界では、運気の流れが切り替わる転換点として扱われてきました。
暗さのピークを越え、少しずつ光が戻る――その自然のリズムこそが、前向きな象徴と重ねられたのです。
冬至は“悪いことが終わり、良いことが始まる日”
陰陽思想では、エネルギーは一定の状態にとどまらず、極まると反転すると考えられています。冬至は、その“陰”が最高潮に達する日。ここから陽の気が少しずつ戻り、季節は春へ向かって動きはじめます。
こうした自然観が、古来から「新しいスタート」「悪い流れのリセット」として、多くの国の文化に受け継がれています。
湯につかる、赤い食べ物を食べる、家を整える――
それらは心と身体を温め、不安や疲れを静かに鎮めるための知恵でもあります。
悪いことが続いたと感じたとき。
焦りや不安に包まれる日が続いたとき。
冬至は、そっと背中に手を添えてくれる存在なのかもしれません。
年末に向けて心身をリセットする意味
冬至は、年末の忙しさが本格化する前の“小休止”のような立ち位置でもあります。
寒さによる疲労や、長く続く暗さからくる気持ちの揺らぎ。そうしたものを整えるタイミングとして、保温・睡眠・食事を見直すのにも適しています。新しい年を迎える支度の前に、まず自分をいたわる――そんなメッセージがこめられているようにも思えます。
アミナコレクションの創業について
民俗文化や手仕事をテーマに展開するアミナコレクションは、冬至の日に創業した企業として知られています。陰が極まり、陽へと歩み出す節目に掲げられた創業理念「WALK WITH THE SUN」には、自然とともに歩む人間の心を見つめる精神が息づいています。
関連記事【世田谷ボロ市】チャイハネ 51年目の出店
世界の冬至が教えてくれる、光を待つ心
冬至は、古くから世界中の人びとが太陽の復活と未来の健康を願い、家族の絆を確かめてきた節目です。長い夜は、人を寄り合わせ、語り合う理由になるのでしょう。
闇が深まる季節には、気持ちが沈むこともあります。でも、その先に差し込む光は、暗闇が深いほどくっきりと見えるものです。
柚子を浮かべた湯船に身をあずけ、かぼちゃの甘みを噛みしめる夜。世界のどこかで、同じ光を願う誰かがいる——そんなつながりを感じられるのも、冬至の魅力なのかもしれません。
今年の冬至は、小さな灯りをともしてみませんか。暗闇の向こうに光がある――2025年の冬至が、あなたにとってあたたかな再出発の日になりますように。
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冬至と密接な関係があるクリスマスについて▼
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