人気のキーワード
★隙間時間にコラムを読むならアプリがオススメ★
夏と言えば海。でもイスラム教徒の人々はどのようにビーチを楽しんでいるのでしょうか?今回はモロッコで体験したイスラム式のビーチの楽しみ方です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
ある夏の夜、当時結婚していたモロッコ人の夫が言いました。「今度、海に行こうか」と。私たちはちょうどVISAの関係で日本大使館があるラバトへ行く計画を立てていました。「ラバトには綺麗な海があって、泳げるビーチもあるよ」と言うのです。異国暮らしで窮屈な思いをしていた私にとって、それはとっても嬉しいニュースでした。
と同時に浮かび上がるのは〝でもいいの?女性は肌を隠さなきゃダメだよね?〟という疑問でした。
念のため「私、水着を持っていないよ」と夫に伝えます。夫は当たり前のように「そんなの必要ないでしょ」と。そして隣の部屋の引き出しをゴソゴソさぐると、自分はこれを着ていくのだと普段から着用している半ズボンを見せてくれました。水着どころか水陸両用でさえないズボンです。
思い返してみると、モロッコに滞在して数カ月、その間私は一度も水着なるものを見ていませんでした。超がつく田舎住まいだからでしょうか?しかしスーパーでも、他の街でも見かけた記憶がありません。もしかしたらこの国には水着というものが存在しないのかも?と思いかけました。
大西洋沿岸に位置するラバトは、モロッコの中で一番モロッコらしくない街でした。都会的と表現すればいいのでしょうか。首都として機能しているこの街には公的機関や大使館も並んでいます。広い道路や人工的に整えられたビル。クリーンな印象の街にはスーツ姿の人も歩いていて〝あれ?ここモロッコだっけ?〟と軽くショックを受けるほどでした。
バスの窓から見える景色に複雑な気持ちを抱いていると「ここで降りるよ」と夫が声をかけてきます。「ビーチはすぐだから」という言葉を信じて1時間。海は見えるのに、漁港ばかりで泳げる場所はどこにもないという状況が続きました。
それでも、私は物凄くワクワクしていました。踏みしめると簡単に崩れてしまうような白い砂浜にキラキラ青く輝く透明な海…。頭の中に、南国の美しいビーチを思い浮かべて。
しかし到着した場所は、なんだか黒っぽい海と、ベタッとした灰色の砂浜でした。太陽のせいでそう見えるのか、風が強いからなのか、それとも漁港が近くにあるからなのか…。〝非先進国の一番のウリは、手つかずの自然でしょ?〟と勝手に悪態をつくほど落胆しました。
モロッコ人の夫が〝地元の人に愛されるビーチ〟と紹介するだけあって、ビーチは人で賑わっていました。ただ、そこまで広くはありません。見渡す限り続く砂浜をイメージしていたからかも知れませんが、こじんまりした印象です。地図アプリに載る規模でもないので、知らない人は訪れないでしょう。
また周囲には何もありませんでした。トイレはもちろん、ジュースを買えるようなちょっとした店や人さえおらず、そこは純粋に海を楽しむだけの場所となっていました。
10歳くらいの男の子たちが数人、上半身裸でボール遊びをしています。波打ち際で夢中になってボールを蹴る少年たちの姿は、未来のサッカー選手を思わせるほど純粋で輝いていました。
見渡すと、みんな思い思いに海を楽しんでいます。でも日本の海で見かけるようなパラソルやベンチはありません。レジャーシートを敷いている人もいませんでした。体が汚れることなど気にもせず、砂浜に直で寝転がったり、座ったりしています。
そして見事に男性ばかりでした。予想はしていましたが〝この世界に女性はいないの?〟と思うレベルの少なさです。じっと目を凝らしてやっと、おばあさんと表現しても良い年齢の女性を一人だけ見つけました。家族と一緒に来ているようで、20代に見える子どもというには成長しすぎた子どもたちが周囲をまとわりついています。
はしゃぐ人々を見て感化された夫が「泳がなきゃ!」とTシャツを脱ぎ捨てます。つられて私が服を脱ぐことは…ありません。
肌を隠すことが美徳とされるイスラム。このビーチにビキニを着ている女性は一人もいません。水着を着ている女性もいません。男性と少年と男児が上半身裸になって遊びまわっているだけで、こんな場所でも女性は全身をゆったり覆うイスラムらしい衣装を着ていました。
夫と共に海までゆっくり歩きました。私は足首までの丈の長いワンピースと日焼け防止のカーディガンという姿。全身の肌は隠せているのでマナーとしてはOKですが、髪を隠していないからか色んな方向から視線を感じます。さげすむようなイヤな視線ではなく、驚いちゃった!という感じの視線です。
サンダルを脱いで海に入ります。海水は思ったほど冷たくなくて温度が低い温泉に入っている気分になりました。
ビーチに来る前に事前に夫と相談していました。海に入るのは…膝下までならOKというのが夫の意見でした。膝より上は絶対にダメ。スカートは濡れてもいい、だけどスカートをたくし上げたり、めくったりするのはダメ。
全身水に潜るなんて何考えているの?水に濡れたら体のラインが出てしまう!そこは絶対にダメ!という意見。だから私は、足首からちょっとだけ上までを海水につけて遊ぶ水遊びのような海遊びをしました。可哀そう?いいえ、五感をフルに使えて、意外と私は満足でした。
私は外国人だからという理由をつけて、好きにすごせば良いのかもしれませんが、そこまでの冒険をするつもりはありませんでした。モロッコはイスラム教が大多数を占めるイスラム教徒の国です。自分は自分を貫く人もいるでしょうが、私の場合は、周囲が不快に思う行動や、トラブルを招く行動は控えるべきという考え方で過ごしています。
しばらく海遊びをして砂浜に戻ると、先ほど見かけた唯一の女性が波打ち際で立っていました。私と同じように、足首から下だけを海水につけて海を楽しんでいます。服が濡れるのは全く気にしない様子で、地面をするほど長い洋服の裾はベタベタに濡れていました。
周囲では男性たちがはしゃいでいるというのに、女性は瞑想しているかのように微動だにしません。一人静かに潮の満ち引きを感じている女性の姿は、なんだか神秘的でとても幸せそうに見えました。
しばらく見守っていると子どもたちが駆け寄ってきます。成人後も「ママ大好き」「ママを一人にさせない」という気持ちが強いモロッコ人たち。母親である女性にまとわりつき何だかんだと騒いでいます。先ほどの一人静かに海を見つめる姿も幸せそうでしたが、家族に囲まれた姿もとても幸せそうに見えました。〝暗い〟〝黒い〟と思っていたビーチの印象がガラリと変わります。
派手なパラソルや新しい水着がなくても幸せ。足首を海につけられるだけで幸せ。シャワーがなくても気にしない。何を不自由とするか、何を幸せとするかは自分次第なのだと、教えてもらった気がします。
モロッコ人男性との国際結婚にまつわる話はこちら▼
リアルなイスラム文化について知りたい方はこちら▼
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。マイナーな国をメインに、世界中を旅する。旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。公式HP:Lucia Travel
夏と言えば海。でもイスラム教徒の人々はどのようにビーチを楽しんでいるのでしょうか?
今回はモロッコで体験したイスラム式のビーチの楽しみ方です。
Lucia Travel連載一覧は こちら
目次
モロッコには水着が無い?
ある夏の夜、当時結婚していたモロッコ人の夫が言いました。「今度、海に行こうか」と。
私たちはちょうどVISAの関係で日本大使館があるラバトへ行く計画を立てていました。
「ラバトには綺麗な海があって、泳げるビーチもあるよ」と言うのです。異国暮らしで窮屈な思いをしていた私にとって、それはとっても嬉しいニュースでした。
と同時に浮かび上がるのは〝でもいいの?女性は肌を隠さなきゃダメだよね?〟という疑問でした。
念のため「私、水着を持っていないよ」と夫に伝えます。夫は当たり前のように「そんなの必要ないでしょ」と。
そして隣の部屋の引き出しをゴソゴソさぐると、自分はこれを着ていくのだと普段から着用している半ズボンを見せてくれました。水着どころか水陸両用でさえないズボンです。
思い返してみると、モロッコに滞在して数カ月、その間私は一度も水着なるものを見ていませんでした。
超がつく田舎住まいだからでしょうか?しかしスーパーでも、他の街でも見かけた記憶がありません。もしかしたらこの国には水着というものが存在しないのかも?と思いかけました。
モロッコの首都ラバトの海の色は…
大西洋沿岸に位置するラバトは、モロッコの中で一番モロッコらしくない街でした。都会的と表現すればいいのでしょうか。首都として機能しているこの街には公的機関や大使館も並んでいます。
広い道路や人工的に整えられたビル。クリーンな印象の街にはスーツ姿の人も歩いていて〝あれ?ここモロッコだっけ?〟と軽くショックを受けるほどでした。
バスの窓から見える景色に複雑な気持ちを抱いていると「ここで降りるよ」と夫が声をかけてきます。
「ビーチはすぐだから」という言葉を信じて1時間。海は見えるのに、漁港ばかりで泳げる場所はどこにもないという状況が続きました。
それでも、私は物凄くワクワクしていました。踏みしめると簡単に崩れてしまうような白い砂浜にキラキラ青く輝く透明な海…。頭の中に、南国の美しいビーチを思い浮かべて。
しかし到着した場所は、なんだか黒っぽい海と、ベタッとした灰色の砂浜でした。太陽のせいでそう見えるのか、風が強いからなのか、それとも漁港が近くにあるからなのか…。
〝非先進国の一番のウリは、手つかずの自然でしょ?〟と勝手に悪態をつくほど落胆しました。
人口比率は男性9割女性1割
モロッコ人の夫が〝地元の人に愛されるビーチ〟と紹介するだけあって、ビーチは人で賑わっていました。ただ、そこまで広くはありません。
見渡す限り続く砂浜をイメージしていたからかも知れませんが、こじんまりした印象です。地図アプリに載る規模でもないので、知らない人は訪れないでしょう。
また周囲には何もありませんでした。トイレはもちろん、ジュースを買えるようなちょっとした店や人さえおらず、そこは純粋に海を楽しむだけの場所となっていました。
10歳くらいの男の子たちが数人、上半身裸でボール遊びをしています。波打ち際で夢中になってボールを蹴る少年たちの姿は、未来のサッカー選手を思わせるほど純粋で輝いていました。
見渡すと、みんな思い思いに海を楽しんでいます。でも日本の海で見かけるようなパラソルやベンチはありません。レジャーシートを敷いている人もいませんでした。
体が汚れることなど気にもせず、砂浜に直で寝転がったり、座ったりしています。
そして見事に男性ばかりでした。予想はしていましたが〝この世界に女性はいないの?〟と思うレベルの少なさです。
じっと目を凝らしてやっと、おばあさんと表現しても良い年齢の女性を一人だけ見つけました。家族と一緒に来ているようで、20代に見える子どもというには成長しすぎた子どもたちが周囲をまとわりついています。
絶対にNGなことリスト
はしゃぐ人々を見て感化された夫が「泳がなきゃ!」とTシャツを脱ぎ捨てます。つられて私が服を脱ぐことは…ありません。
肌を隠すことが美徳とされるイスラム。このビーチにビキニを着ている女性は一人もいません。水着を着ている女性もいません。
男性と少年と男児が上半身裸になって遊びまわっているだけで、こんな場所でも女性は全身をゆったり覆うイスラムらしい衣装を着ていました。
夫と共に海までゆっくり歩きました。私は足首までの丈の長いワンピースと日焼け防止のカーディガンという姿。
全身の肌は隠せているのでマナーとしてはOKですが、髪を隠していないからか色んな方向から視線を感じます。さげすむようなイヤな視線ではなく、驚いちゃった!という感じの視線です。
サンダルを脱いで海に入ります。海水は思ったほど冷たくなくて温度が低い温泉に入っている気分になりました。
女性が海に入るのは足首まで
ビーチに来る前に事前に夫と相談していました。海に入るのは…膝下までならOKというのが夫の意見でした。
膝より上は絶対にダメ。スカートは濡れてもいい、だけどスカートをたくし上げたり、めくったりするのはダメ。
全身水に潜るなんて何考えているの?水に濡れたら体のラインが出てしまう!そこは絶対にダメ!という意見。
だから私は、足首からちょっとだけ上までを海水につけて遊ぶ水遊びのような海遊びをしました。可哀そう?いいえ、五感をフルに使えて、意外と私は満足でした。
私は外国人だからという理由をつけて、好きにすごせば良いのかもしれませんが、そこまでの冒険をするつもりはありませんでした。モロッコはイスラム教が大多数を占めるイスラム教徒の国です。自分は自分を貫く人もいるでしょうが、私の場合は、周囲が不快に思う行動や、トラブルを招く行動は控えるべきという考え方で過ごしています。
幸せそうなモロッコ人女性の姿
しばらく海遊びをして砂浜に戻ると、先ほど見かけた唯一の女性が波打ち際で立っていました。私と同じように、足首から下だけを海水につけて海を楽しんでいます。
服が濡れるのは全く気にしない様子で、地面をするほど長い洋服の裾はベタベタに濡れていました。
周囲では男性たちがはしゃいでいるというのに、女性は瞑想しているかのように微動だにしません。一人静かに潮の満ち引きを感じている女性の姿は、なんだか神秘的でとても幸せそうに見えました。
しばらく見守っていると子どもたちが駆け寄ってきます。成人後も「ママ大好き」「ママを一人にさせない」という気持ちが強いモロッコ人たち。母親である女性にまとわりつき何だかんだと騒いでいます。
先ほどの一人静かに海を見つめる姿も幸せそうでしたが、家族に囲まれた姿もとても幸せそうに見えました。〝暗い〟〝黒い〟と思っていたビーチの印象がガラリと変わります。
派手なパラソルや新しい水着がなくても幸せ。足首を海につけられるだけで幸せ。シャワーがなくても気にしない。
何を不自由とするか、何を幸せとするかは自分次第なのだと、教えてもらった気がします。
関連記事
モロッコ人男性との国際結婚にまつわる話はこちら▼
リアルなイスラム文化について知りたい方はこちら▼
筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel