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岩木山は1,625m。津軽富士といわれる秀麗な山で山頂が山の字型に三つに分かれ、神社の鳥居の上にそびえている。津軽の人でお山に登った事の無い人はおるまい。
成人の条件のように言われ、旧暦八月一日のお山参詣は津軽の人にとって欠かせない年中行事である。村ごとにチームを組んで普段から囃子を練習し、それぞれの村の中の河原に小屋を建て川で禊ぎをしたり一週間はお籠りをしてつみ穢れを清めた。
そして村から歩いて行列し、神社の近くまで来て道行の演奏をしながら神社に入る。祈祷を受けてから広場でいくつもの輪を作ってまた演奏する。一つのグループでも両面太鼓だけで十台、鉦が十台、笛が三、四人とおおがかりだ。そしていつのまにかその周りに踊りの輪が加わる。
よく観察すると三十代、四十代、五十代の男女が中心だが、先頭に立って踊っているのは主婦らしい赤い布を背中に背負った女性だ。赤い布には子供がいるのかと思っていたが、二つ出ている頭は植物の瘤のようだ。茶色い丸っこい頭だ。
聞くと「オシラサマ」だという。青森、岩手、秋田に伝わる伝説の桑の木で作られた神様だ。 馬とその馬に恋をした娘が親に激怒され、馬は殺され、娘も絶望して昇天したが、夢枕で親に蚕と絹のことを教えて養蚕を伝えたという有名な伝説だ。
主婦は毎年こうしてお山参詣に参加するそうだ。その女性の踊りは背負ったオシラサマのせいか鬼気迫るものがあり、疲れを知らずに踊り続けていた。翌日九月十九日の午後にもオシラサマを持つ女性に出合った。今度は老女がすっぽりと顔の部分まで布を被せた二つの木彫を大事そうに見せてくれた。
昭和四十年代から津軽の自然環境も大きく変化した。道路交通法の改正でお山参詣の名物行事であった「道行」が出来なくなった。今では神社近くの1kmくらいしか歩けなくなった。
そして昭和四十年、岩木山スカイラインが八合目まで出来た。登山チームが必ず持っていたヒノキのふしなしをカンナで削って作っていた大きな御幣は十年前くらいから大工が少なくなり、ビニールで仕上げるのも見られるようになった。
登山囃子の歌詞は今でも変わらず
さいぎ さいぎ どっこいさいぎ おやまにはつだい こんごうどうさいつになのはい なむ きみょうちょうらい
と歌われ、下山囃子は
おっかさんの おかげで よいやま かけた ついたち やまかけた ああ ばたら(満足)ばたらばたらよ
と元気に歌っている。
神社百選一覧はこちらから
進藤彦興著 『詩でたどる日本神社百選』から抜粋
岩木山は1,625m。津軽富士といわれる秀麗な山で山頂が山の字型に三つに分かれ、神社の鳥居の上にそびえている。津軽の人でお山に登った事の無い人はおるまい。
成人の条件のように言われ、旧暦八月一日のお山参詣は津軽の人にとって欠かせない年中行事である。村ごとにチームを組んで普段から囃子を練習し、それぞれの村の中の河原に小屋を建て川で禊ぎをしたり一週間はお籠りをしてつみ穢れを清めた。
そして村から歩いて行列し、神社の近くまで来て道行の演奏をしながら神社に入る。祈祷を受けてから広場でいくつもの輪を作ってまた演奏する。一つのグループでも両面太鼓だけで十台、鉦が十台、笛が三、四人とおおがかりだ。そしていつのまにかその周りに踊りの輪が加わる。
よく観察すると三十代、四十代、五十代の男女が中心だが、先頭に立って踊っているのは主婦らしい赤い布を背中に背負った女性だ。赤い布には子供がいるのかと思っていたが、二つ出ている頭は植物の瘤のようだ。茶色い丸っこい頭だ。
聞くと「オシラサマ」だという。青森、岩手、秋田に伝わる伝説の桑の木で作られた神様だ。
馬とその馬に恋をした娘が親に激怒され、馬は殺され、娘も絶望して昇天したが、夢枕で親に蚕と絹のことを教えて養蚕を伝えたという有名な伝説だ。
主婦は毎年こうしてお山参詣に参加するそうだ。その女性の踊りは背負ったオシラサマのせいか鬼気迫るものがあり、疲れを知らずに踊り続けていた。翌日九月十九日の午後にもオシラサマを持つ女性に出合った。今度は老女がすっぽりと顔の部分まで布を被せた二つの木彫を大事そうに見せてくれた。
昭和四十年代から津軽の自然環境も大きく変化した。道路交通法の改正でお山参詣の名物行事であった「道行」が出来なくなった。今では神社近くの1kmくらいしか歩けなくなった。
そして昭和四十年、岩木山スカイラインが八合目まで出来た。登山チームが必ず持っていたヒノキのふしなしをカンナで削って作っていた大きな御幣は十年前くらいから大工が少なくなり、ビニールで仕上げるのも見られるようになった。
登山囃子の歌詞は今でも変わらず
さいぎ さいぎ どっこいさいぎ
おやまにはつだい こんごうどうさいつになのはい
なむ きみょうちょうらい
と歌われ、下山囃子は
おっかさんの おかげで
よいやま かけた
ついたち やまかけた
ああ ばたら(満足)ばたらばたらよ
と元気に歌っている。
神社百選一覧はこちらから
進藤彦興著 『詩でたどる日本神社百選』から抜粋