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アフリカ大陸の小国ジブチ共和国には、アッサル湖と呼ばれる素晴らしい湖があります。 余り知られていませんが、この湖は世界一の塩分濃度を誇る湖(あの死海より濃いんです)。そして丸い形の塩が生まれる湖でもあります。 今回は、生き物が全くいない死の湖アッサル湖をご紹介します。
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ジブチは灼熱の国。乾いた大地が広がるばかりで余り観光する場所はありません。でも国を代表する観光地としてアッサル湖があります。首都からは車で2時間ほど。アフリカ大陸で一番海抜が低く(マイナス155m)、人が浮くことで有名な「死海」よりさらに塩分濃度が濃い湖です。
そして、特筆すべきは、その色と景色!(メイン写真を見てね) 全く有名ではないアッサル湖ですが、その景色は、もう絶景中の絶景!(もし秘境を探しているのなら、間違いなくおススメ)
アッサル湖へは、ジブチの首都から車で2時間ちょっと。でも、湖が近づくに連れゴツゴツした岩場が増え、車が走行できなくなるため、途中から徒歩となります。 足場が悪いため、また車は庶民の手が届かない高級品のため、地元の人々は徒歩かラクダで移動。ザ・アフリカという景色の中で、湖に向かい岩場を降りていきます。
ジブチは暑い国です。立っているだけでもしんどく、強すぎる太陽の光の下では肌は刺されているかのように痛みます。 そんな中を歩いていると、湖の方から熱風が吹き荒れてきているのに気付きます。海抜マイナス155mから吹き荒れてくる熱風は、顔を隠したくなるほど熱く、息をするのもはばかられる熱さ(地元の人々が顔を隠しているのは、宗教だけが理由ではなく、この環境も一因かな?と思っています)。
360度、太陽をさえぎってくれるものがない世界。吹き荒れる熱風にひるまず進んでいくと、白と青が何重にも重なった不思議な世界にたどり着きます。
湖といっても、そこに私たちが思い描く湖はありません。世界で一番塩度が濃い湖は、水がほぼ干上がっていて、波打ち際には塩の塊があちこちにできています。そして驚くことに、寄せては返すはずの波紋が〝塩の塊〟になって固まっていました。
もちろん、生物もゼロ。生き物の気配が一切しない空間です。
沖へいくほど青が濃くなり、水も深くなります。憧れの〝浮遊体験〟もできそうですが、私は足首をつけただけでギブアップしました。
「死海」を超える塩分濃度なだけあって、海水はかなりの刺激。〝海水〟なのに、煮詰めてドロドロにした砂糖水に触っているような感覚でした。ほんの数分なのに、足には痒みや痛みが走ります。
それでも、そんな痛みを感じさせなくなるさせるほどアッサル湖は綺麗でした。
どこまでも続く真っ白な砂浜(塩浜?)、輝く青い海。途切れることなく続いていくグラデーション…。人の手では決してつくれない、自然のなせる御業に心を奪われたのは、初めてのことでした。
アッサル湖周辺には、温泉が湧いています。どこにも湯煙はあがっていないのに、大地は水不足で乾燥しているというのに、カラカラの岩場の合間になぜか水溜まりがあって、そこが実は温泉ということが多々ありました。
またアッサル湖では、ラクダに乗ったキャラバンの姿を何度も目にしました。荷物をのせたラクダや頭にターバンを巻いた細身の男性たちが、道なき道を列をなして歩いていきます。まるでタイムスリップしたかのような、絵に描いたようなキャラバン隊。
そのうちの一人、若い少年と話す機会がありました。年は20代前半かな?10代でも通ってしまうベビーフェイスの彼には奥さんが2人いました(イスラム教では3人まで奥さんを持てます。あと1人のお嫁さんも募集中だよ♡とウインクしてくる彼は、とても可愛くハンサムでした)。そして、奥さんが2人とも温泉の中で出産をしたと話をしてくれました。
「この辺りにいる女性たちは陣痛が始まったら、みんな温泉に入るんだよ。」 「温泉に入ると、お産がスムーズに進むと昔から言われているんだ」
出産場所としても使われる温泉に、連れて行ってもらいました。そこは一面、綺麗なグリーンの世界。人魚が住んでいると言われたら信じてしまいそうなほど、透き通っています。
湯気が沸いているわけでもなく、美しいグリーンが何層にも折り重なっている広い泉を前に、「温泉と言っても低温?海外によくある水着で入るぬるめのお湯かな」と見た目から勝手に思い込んでいた私は、指を入れてその熱さにのけぞりました。
熱い。こんなの1分も指を入れていられない、熱い。熱いというか痛い…。 その温泉は、見た目とは裏腹に高温でした。温度は50度ちょっとだそうで。
思いを馳せます。陣痛で声が出ないほど痛い。腰が砕けそう。もう一歩も歩けない。それなのに、足場の悪いゴツゴツした岩場の道を歩く。多分、何時間も。やっとたどり着いたと思ったら50度を超える高温のお湯に入らなくてはいけない。アチチ、アチチと言いながら陣痛に耐えるジブチの女性は、なんて逞しいのか。
日本でも、お風呂やシャワーは陣痛促進効果があると認められていますが、こんな熱いお湯は想定されていないはず。
キャラバンの少年から、温泉で陣痛促進と聞いたときは、温泉=リラックス=陣痛促進と思っていましたが、リラックスとは程遠い状況を前にして改めて気付きました。日本の常識=世界の常識ではない、見聞きするのと、実際に触れるのとは、別格。
お産のスタイルはさまざまですが、ジブチのこの出産スタイルは、世界でも類を見ないのではないかな?と勝手に思っています。
アッサル湖には、マリモのような球体の形をした塩が転がっています。大きさは大・中・小とさまざま。私が見たときは、大きいものはゴルフボールほど、小さなものはウズラの卵を一回り小さくしたようなサイズでした。
この塩は自然の産物。 熱と乾燥で干上がった塩は、吹き荒れる風を受け、湖をコロコロ、コロコロ。転がり続けるうちに、自然と角がとれ、時間をかけて球体となり、やがてゴルフボール大にまで成長していく…。
月日をかけて形成されるジブチの塩は、とても美しく、大きくなるほどピンク色が濃くなっていました。
またこの球体の塩は、現地の人々は薬代わりに使っていると教えてもらいました。滅多なことでは病院に行けない彼らは、体調が悪くなると、この塩を溶かしたお湯に浸かってじっくり体を温めます。それで「だいたいどんな病気でもOK。治るよ」と教えてもらいました。お守り代わりに、持ち歩いている人もいました。
アッサル湖の塩にどんな効果があるのかは不明ですが、簡単には病院に行けない環境下で継承されてきたこの知恵、もしかしたら、日本の湯治や薬草のような効果があるのかも知れません。
この塩は、塩湖付近でお土産としても販売されています。 お土産といっても露店販売。テーブルもイスもなく地面に商品が置いてあるだけですが、空のペットボトルに、大きさをそろえた塩をいっぱい詰めこんだ品々が並ぶようすは、ちょっと神秘的。大・中・小と、大きさや色の違いを見比べることができます。
世界で一番美しいと思わせてくれるようなアッサル湖は、いま開発という名の破壊が進んでいます。自然の力だけが生み出せる景色が、変わってしまっています。
もう何年かしたら、アッサル湖の美しい水の色は消えてしまうかも知れません。乾いた大地と灼熱の太陽、熱風が作り出しているまるい塩玉も、生まれなくなるかもしれません。
できるなら、あの景色をもう一度見て見たいな、そう思うこの頃です。
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。 マイナーな国をメインに、世界中を旅する。 旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。 出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。 公式HP:Lucia Travel
アフリカ大陸の小国ジブチ共和国には、アッサル湖と呼ばれる素晴らしい湖があります。
余り知られていませんが、この湖は世界一の塩分濃度を誇る湖(あの死海より濃いんです)。そして丸い形の塩が生まれる湖でもあります。
今回は、生き物が全くいない死の湖アッサル湖をご紹介します。
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目次
ジブチを代表する観光地「アッサル湖」へ
ジブチは灼熱の国。乾いた大地が広がるばかりで余り観光する場所はありません。でも国を代表する観光地としてアッサル湖があります。首都からは車で2時間ほど。アフリカ大陸で一番海抜が低く(マイナス155m)、人が浮くことで有名な「死海」よりさらに塩分濃度が濃い湖です。
そして、特筆すべきは、その色と景色!(メイン写真を見てね)
全く有名ではないアッサル湖ですが、その景色は、もう絶景中の絶景!(もし秘境を探しているのなら、間違いなくおススメ)
吹き荒れる熱風。苦行のような道のり
アッサル湖へは、ジブチの首都から車で2時間ちょっと。でも、湖が近づくに連れゴツゴツした岩場が増え、車が走行できなくなるため、途中から徒歩となります。
足場が悪いため、また車は庶民の手が届かない高級品のため、地元の人々は徒歩かラクダで移動。ザ・アフリカという景色の中で、湖に向かい岩場を降りていきます。
ジブチは暑い国です。立っているだけでもしんどく、強すぎる太陽の光の下では肌は刺されているかのように痛みます。
そんな中を歩いていると、湖の方から熱風が吹き荒れてきているのに気付きます。海抜マイナス155mから吹き荒れてくる熱風は、顔を隠したくなるほど熱く、息をするのもはばかられる熱さ(地元の人々が顔を隠しているのは、宗教だけが理由ではなく、この環境も一因かな?と思っています)。
360度、太陽をさえぎってくれるものがない世界。吹き荒れる熱風にひるまず進んでいくと、白と青が何重にも重なった不思議な世界にたどり着きます。
湖といっても、そこに私たちが思い描く湖はありません。世界で一番塩度が濃い湖は、水がほぼ干上がっていて、波打ち際には塩の塊があちこちにできています。そして驚くことに、寄せては返すはずの波紋が〝塩の塊〟になって固まっていました。
もちろん、生物もゼロ。生き物の気配が一切しない空間です。
塩分濃度が高すぎて痛い!浮遊体験はギブアップ
沖へいくほど青が濃くなり、水も深くなります。憧れの〝浮遊体験〟もできそうですが、私は足首をつけただけでギブアップしました。
「死海」を超える塩分濃度なだけあって、海水はかなりの刺激。〝海水〟なのに、煮詰めてドロドロにした砂糖水に触っているような感覚でした。ほんの数分なのに、足には痒みや痛みが走ります。
それでも、そんな痛みを感じさせなくなるさせるほどアッサル湖は綺麗でした。
どこまでも続く真っ白な砂浜(塩浜?)、輝く青い海。途切れることなく続いていくグラデーション…。人の手では決してつくれない、自然のなせる御業に心を奪われたのは、初めてのことでした。
乾いた大地に湧く温泉
アッサル湖周辺には、温泉が湧いています。どこにも湯煙はあがっていないのに、大地は水不足で乾燥しているというのに、カラカラの岩場の合間になぜか水溜まりがあって、そこが実は温泉ということが多々ありました。
またアッサル湖では、ラクダに乗ったキャラバンの姿を何度も目にしました。荷物をのせたラクダや頭にターバンを巻いた細身の男性たちが、道なき道を列をなして歩いていきます。まるでタイムスリップしたかのような、絵に描いたようなキャラバン隊。
そのうちの一人、若い少年と話す機会がありました。年は20代前半かな?10代でも通ってしまうベビーフェイスの彼には奥さんが2人いました(イスラム教では3人まで奥さんを持てます。あと1人のお嫁さんも募集中だよ♡とウインクしてくる彼は、とても可愛くハンサムでした)。そして、奥さんが2人とも温泉の中で出産をしたと話をしてくれました。
「この辺りにいる女性たちは陣痛が始まったら、みんな温泉に入るんだよ。」
「温泉に入ると、お産がスムーズに進むと昔から言われているんだ」
出産場所としても使われる温泉に、連れて行ってもらいました。そこは一面、綺麗なグリーンの世界。人魚が住んでいると言われたら信じてしまいそうなほど、透き通っています。
湯気が沸いているわけでもなく、美しいグリーンが何層にも折り重なっている広い泉を前に、「温泉と言っても低温?海外によくある水着で入るぬるめのお湯かな」と見た目から勝手に思い込んでいた私は、指を入れてその熱さにのけぞりました。
50度超え?過酷な水中出産
熱い。こんなの1分も指を入れていられない、熱い。熱いというか痛い…。
その温泉は、見た目とは裏腹に高温でした。温度は50度ちょっとだそうで。
思いを馳せます。陣痛で声が出ないほど痛い。腰が砕けそう。もう一歩も歩けない。それなのに、足場の悪いゴツゴツした岩場の道を歩く。多分、何時間も。やっとたどり着いたと思ったら50度を超える高温のお湯に入らなくてはいけない。アチチ、アチチと言いながら陣痛に耐えるジブチの女性は、なんて逞しいのか。
日本でも、お風呂やシャワーは陣痛促進効果があると認められていますが、こんな熱いお湯は想定されていないはず。
キャラバンの少年から、温泉で陣痛促進と聞いたときは、温泉=リラックス=陣痛促進と思っていましたが、リラックスとは程遠い状況を前にして改めて気付きました。日本の常識=世界の常識ではない、見聞きするのと、実際に触れるのとは、別格。
お産のスタイルはさまざまですが、ジブチのこの出産スタイルは、世界でも類を見ないのではないかな?と勝手に思っています。
ジブチのお土産にも!万能薬として親しまれる"塩玉"
アッサル湖には、マリモのような球体の形をした塩が転がっています。大きさは大・中・小とさまざま。私が見たときは、大きいものはゴルフボールほど、小さなものはウズラの卵を一回り小さくしたようなサイズでした。
この塩は自然の産物。
熱と乾燥で干上がった塩は、吹き荒れる風を受け、湖をコロコロ、コロコロ。転がり続けるうちに、自然と角がとれ、時間をかけて球体となり、やがてゴルフボール大にまで成長していく…。
月日をかけて形成されるジブチの塩は、とても美しく、大きくなるほどピンク色が濃くなっていました。
またこの球体の塩は、現地の人々は薬代わりに使っていると教えてもらいました。滅多なことでは病院に行けない彼らは、体調が悪くなると、この塩を溶かしたお湯に浸かってじっくり体を温めます。それで「だいたいどんな病気でもOK。治るよ」と教えてもらいました。お守り代わりに、持ち歩いている人もいました。
アッサル湖の塩にどんな効果があるのかは不明ですが、簡単には病院に行けない環境下で継承されてきたこの知恵、もしかしたら、日本の湯治や薬草のような効果があるのかも知れません。
この塩は、塩湖付近でお土産としても販売されています。
お土産といっても露店販売。テーブルもイスもなく地面に商品が置いてあるだけですが、空のペットボトルに、大きさをそろえた塩をいっぱい詰めこんだ品々が並ぶようすは、ちょっと神秘的。大・中・小と、大きさや色の違いを見比べることができます。
進む開発。失われる絶景
世界で一番美しいと思わせてくれるようなアッサル湖は、いま開発という名の破壊が進んでいます。自然の力だけが生み出せる景色が、変わってしまっています。
もう何年かしたら、アッサル湖の美しい水の色は消えてしまうかも知れません。乾いた大地と灼熱の太陽、熱風が作り出しているまるい塩玉も、生まれなくなるかもしれません。
できるなら、あの景色をもう一度見て見たいな、そう思うこの頃です。
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筆者プロフィール:R.香月(かつき)
大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel