女性の写真は撮ったらダメ?ジブチの不思議な体験記

アフリカにあるジブチ共和国は、世界で一番暑い灼熱の国。今回は過酷な環境下で生きる彼らの“ちょとした日常”を、旅人目線でお伝えします。

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食べるものがないレストラン

郊外のレストランに行ったときのことです。
ジブチ風スパゲッティ、お肉と豆を煮たアフリカらしい料理、ローストチキンらしきお肉料理、不思議な色のスープ…。店内はほぼ満席で、現地の人々がさまざまなメニューを食べていました。

でもジブチのレストランのメニューは基本フランス語です。そして私は全くフランス語が分かりません。「ジブチ料理、食べたいな!」と思いつつも、何のスパゲッティなのか、何のスープなのか、どれが郷土料理なのか、メニューを見てもサッパリ分かりません。

その日は時間もなかったので、写真付きで紹介されていたサンドイッチを注文しました。届けられたサンドイッチは、野菜は少な目でしたが普通のどこにでもあるサンドイッチでした。可もなく不可もなくというお味。

その時です。隣りで食事していた現地の男性のお皿に目が止まりました。
色の付いたお米風の料理の上に細かく刻んだお肉が乗った一皿。ザ・アフリカというその料理に私の目はクギ付けになりました。

何ともおいしそうで、おいしそうで。お店の人に聞きました。「あれは何?あの料理?」「あれはバリース」スパイスで炊きこんだご飯の上に、煮込んだお肉(牛か羊かヤギ)をのせたものだそうです。とても美味しそうでリベンジを誓いました。

翌々日、意気揚々と食堂に行きました。でも店内はガランとしていて、店員さんがヒマそうにテレビを見ていました。ランチタイムには早すぎたのかな?と思いつつ、いそいそと席につく私。覚えたてのフランス語で食べたいものを伝えます。

「バリースください」
「今日はないよ」
「え、ならスパゲッティは?」
「今日はないよ」
「スープは?」
「今日はないよ」
「お肉は?ありますか?」
「今日はないよ」

………

結局、私が食べたいと思っていたものは何一つありませんでした。店員さんは、詫びる事もなく「ないんだよね~」と続けます。

「何がありますか?」
「パンがあるよ!」

テーブルに届けられたのはカチカチに固まったフランスパンでした。フランスやモロッコで食べるような、こおばしい香りがするサクサクのフランスパン…ではなく、水分を含んだような、、、イースト菌がちゃんと膨らんでいないような、、、何日か放置したような、、、一口たべれば「もう充分です…」と言いたくなるような微妙の味のフランスパン。

フランスの植民地だった過去があるからおいしいはずなのに…。と思いながら食べたパンは、私の胃をとても重くしてくれました。

帰る頃になっても、お店にはやっぱりお客さんがきません。先日は大混雑だったのに…。「今日は食べるものがないって、みんな知っているのかな」「なぜお店を開けているんだろう」「これがジブチの普通?」尽きない疑問を抱えてお店を去りました。

サイの形をしているアフリカ大陸の〝角〟にある小国〝ジブチ〟
ジブチの国民料理”インジェラ”

日本の自衛隊、中国の開発

前回も少し紹介しましたが、アフリカの小国・ジブチ共和国には、日本の自衛隊基地があります。それも自衛隊、唯一の海外拠点地です。また青年海外協力隊の派遣地の一つでもあります。

日本と縁遠い存在のように思えて、実はそうではない国それがジブチです。

そのため、現地の人は日本や日本人に親しみを持っているようです。
ジブチでは首都だけでなく郊外、隣国ソマリアの近くまで足を延ばしましたが、日本人だからと差別を受けることも、好機の目で見られることもありませんでした(余談ですが、かつてフランスの田舎(車でしかいけないような場所です)を旅した時は、アジア人を見たことのないフランス人たちから宇宙人を見るかのように見つめらました。小さな女の子は口を開けたまま、固まってしまっていました)。

ジブチ国内を旅行するために(移動手段がないジブチでは、移動のためにガイドさんや運転手さんを雇わなければいけません)現地ツアー会社を探した時には「自衛隊を担当しているツアー会社があるから、ここにしなよ」と、安宿のオーナーが教えてくれるほど日本の自衛隊は浸透していました。

またジブチは貧しく、水不足も深刻です。そのため民家の軒下には、赤十字マークがついた空の給水タンクが置かれていたりします。

無造作に置かれた給水タンクの中に、日本の国旗を見つけることもありました。「思わず、あ」と思ってしまう出来事だったので鮮明に覚えています。数は少ないものの、そっと添えられた小さな日の丸を前に、こんな果てで日本の国旗を見られるなんて、日本が活躍しているなんて、と。

と同時に中国の国旗も見ました。なぜなら大規模な開発を手がけているのは中国だから。
あっちの土地もこっちの土地も、広大な土地に掲げられているのは中国の旗ばかり。街の人いわく「中国がお金を出して開発してくれる」のだそうです。

数少ない自然が開発によって壊されていくのかと思うと、胸の奥が苦しくなります。でも、今の生活に困っていて生きていくのも困難な状況の人々が本当に救われるのなら…。自然を残すのか、豊かな生活か。どちらが正しいのか30年後には分かるのでしょうか?

サイの形をしているアフリカ大陸の〝角〟にある小国〝ジブチ〟

写真は絶対に撮らないで

ジブチでは写真を撮るとき、周囲に気を使わなくてはいけません。なぜなら現地の女性たちは「写真を撮られると悪いことが起きるまたは死んでしまう」と本気で信じているから。

風景を撮るためだけにカメラを向けたとしても、彼女たちには伝わりません。烈火のごとく怒りだします。旅の間中、何度も怒られて自分なりにルールができました。現地の女性がいる場所ではカメラはとりださないようにしよう、と。

もちろん写真OK、全然気にしない!という女性もいますが、私が旅した中では特に首都にいる女性たちは、一様にカメラを嫌っていました。

かわって男性は写真好き。カメラを持っていると「写真撮ってよ!」とポーズを決めてくれたり、撮れた写真を見せると、「ここに送ってね」とメールアドレスを教えてくれたりもしました。

もちろんスマホを持っている人も多いですし、テレビがある家もあります。デジタルはそこそこ浸透している様子。でもカメラや写真が珍しく、女性陣は毛嫌い、男性陣は興味深々といった印象を受けました。

誰かがお金を持っている

前回も登場したエチオピアの優秀な大学を卒業したばかりのガイドさんから聞いた話です。ジブチで生きている彼らは〝宵越しのお金を持たない〟まるで江戸っ子のような暮らしを今もしていました。

どういう話の流れだったか自衛隊とも交流があり日本のことをよく知っている彼に「日本人は貯金が好きなんでしょう?」と聞かれました。

「日本人は貯金が好きなんでしょ。なんのために貯金するの?」
「う~ん。将来のためかな。」
「将来?将来なんてどうなるか分からないじゃん」
「例えば病気になった時、お金がないと困るよね」
「友達や家族が助けてくれないの?みんなそんなに冷たいの?」
「助けてくれるかも知れないけれど、自分のことは自分で何とかしないと」

話をしていて分かったのは、彼と私たちは全く異なる経済観念で生きているということでした。

例えばガイドをしている彼はだいたい、いつも4~6人位の人数で食事に行ったり遊びに行ったりするそうです。お誘いを受けたとき、一文無しでも構わず参加します。なぜって?お金は持っている人が払えばいいから。

凄くシンプルでした。
「僕が持っていたら僕が払う。僕のポケットが空っぽだったら、友人が払う。それだけのことだよ」

サイの形をしているアフリカ大陸の〝角〟にある小国〝ジブチ〟

自分の分も友人の分も関係なく、支払いはお金を持っている人が支払うという考え。今ここでお金を使ってしまったら、次の給料日までどうしよう、などとは考えないそうです。そんな彼らだから当然、貯金はありません。

「手持ちのお金を全部使って怖くないの?明日のことは考えないの?」
「なんで怖いの? 僕が持っていなければ、明日は友人が持っている。明後日は別の友人が持っている。そうしているうちにまた僕にもお金が入る。そうやって回っていくんだよ」

日本で生まれ育った私には、なかなか理解しがたいものでした。

でも、彼の言葉を聞いていて思い出した言葉もありました。

「僕は自分の国にいた時、貯金が30万円あって、とても幸せだった。でも日本にいると感覚が変わるんだ。『貯金が30万円しかない』って。日本にいると、貯金がいくらあっても足らない気持ちになる。幸せじゃなくて不安になる。なんでなんだろうね」

あなたは、なぜだと思いますか。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

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