貸し切りも夢じゃない?! 乾季のウユニ塩湖へ

「今度、ボリビアに行くの」
「ボリビア?」
「うん、南米にあるボリビア。」
「ボリビアか…名前知ってるけど、イメージないなぁ。何にもないんでしょ?物好きだねぇ」
「チチカカ湖があるよ」
「知ってる。教科書で習った記憶がある」
「ウユニ塩湖もあるよ」
「えっ! ウユニってあの写真の!?あの絶景の?」
「そう」
「え~!ウユニってボリビアにあるんだ。私も行きたい!」

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絶景ブームの火付け役・ウユニ

〝奇跡の一枚!〟や〝絶景スポット〟として一躍有名になったウユニ塩湖。白い大地に溜まった雨水がまるで水鏡のように天空を映し出す美しい景色は、絶景ブームの火付け役になりました。

インスタや写真集、個人のブログなどで見る水鏡のような美しい景色は、だいたい雨季シーズンに撮影されたものです。幻想的で美しい空間は、まさに絶景!誰が撮っても、どんなポーズでも絵になる、本当に美しい光景です。

そんな大人気のウユニ塩湖ですが、私の推しはあえての乾季。乾季のウユニは、辺り一面真っ白。どこまで行っても白一色の世界です。でも雪ではないので、冷たくはありません。全てが白い、冷たそう、なのに触ると冷たくないという不思議な、脳をだますような体験ができるんですよ。

乾季のウユニは水がないため、どこへでも歩いていけます。でも、どこまで歩いても世界は白一色。そうやって歩き続けていると、塩だから冷たくないと頭では分かっているのに、なんだか足元が冷たい気がしてきます。だって白色だから。そして、ついつい塩を触ってしまう…。(頭の中では)雪山で遊んでいるのに、体は全く冷えない。そんな脳のバグを楽しむような遊びを私は延々としました。

ウユニ01

精神と時の部屋

乾季のウユニの魅力を表すなら、「精神と時の部屋」という言葉がぴったりです。精神と時の部屋とは大人気漫画『 ドラゴンボール 』に登場する神様の神殿最下層にある修業 部屋のこと。部屋なのに無限に広がっていて、扉を閉めると外の世界から完全にシャットアウトされます。

乾季のウユニは、まさに「精神と時の部屋」。

まず音がありません。雪は踏みしめるとキュッキュッやザクザクなど音がしますが、塩湖の場合、踏みしめて歩いても何の音もしません。

またウユニ塩湖はとても広く、岐阜県と同じくらいの広さがあると言われています。塩湖なので人の家がある訳もなく、電気やガスも通っていません。
乾季の場合は閑散として旅行客もまばらなので、塩湖観光はほぼ貸し切り。だから、歩いても歩いても人工的な音には出会いません。音を発するのは自分の声や息だけ。好きなだけ歩き回っても、人の気配は一切せず、音を発する何かもない。

そうしているうちに、無限に続く白色の世界に自分だけが取り残されたような、背筋がぞっとするような、畏怖にも似た恐怖を味わったのを覚えています。

そして、夕暮れ~夜にかけての景色。夕暮れ時、それまで明るい太陽に照らされて真っ白だった大地が、徐々に薄闇に覆われはじめます。地平線(塩平線?)と空との境目が薄闇で曖昧になりると、あたりは一気に幻想的な雰囲気へと変化。

ただぼんやりと白いだけの空間が、前後左右360度どこを見ても広がっています。綺麗や美しいというよりも、平衡感覚を狂わせるような不思議な光景。

そこはまさに、「精神と時の部屋」でした。

ウユニ02
ボリビア・ラパスで食べたアイスクリーム。世界で一番おいしいかも?と思わせてくれる味でした

イヌイットの恐怖

塩湖をたった一人で歩いていると、ふっとこんな話を思い出します。

アラスカに住むイヌイットの人々は極寒の大地の中、たった一人で狩りに出かけると聞きます。「獲物を求めて何時間も歩き続けていると、ふいに怖くなるときがある。そういう時は、大声を出すんだ」。

この話を聞いたとき、日本で生まれ育った私には、過酷な世界で暮らすイヌイットの気持ちは一生分からないだろうと思っていました。

でも闇夜に包まれた乾季のウユニ塩湖で私は、イヌイットの人と同じ気持ちを味わったのです。音がない恐怖。景色が変わらない恐怖。たった一人で真っ白な世界をさまよっていると、外の世界から隔離された気分になり、だんだん怖くなってきます。

でも、生活のために狩りを続けるイヌイットとは違って、私は旅行者。怖くなったら辞めるという選択肢がありました。私とは違い獲物を得るまでは家に帰ることが許されないイヌイットの人々は、どれだけ強い精神力を持っているのでしょうか。

何一つ動きがない空間で、イヌイットに思いを馳せたのを覚えています。

ウユニ03
観光地でお土産物を売る先住民の人々。伝統的な衣装が、色見のない自然に映えます

水が使えない塩のホテル

ウユニ塩湖には塩のホテルがあります。名前の通り、壁も床も天井もベッドもテーブルもすべてが塩で造られた、正に塩のホテルです。素敵ですよね?小さいころ図鑑で塩のホテルを見ていた私はボリビアに行くと決めたときから、絶対に塩のホテルに泊まると意気込んでいました。

塩でできたホテルはいくつかありますが、私はウユニ塩湖の中にある「プラヤ・ブランカ」という塩湖のど真ん中にあるホテルに宿泊しました。他のホテルは湖畔に建っているので、ウユニを満喫するなら「プラヤ・ブランカ」が一番おススメです(でも残念ながら、現在は廃業)。

こじんまりしたこのホテルは、部屋数も限られているため、大人気で予約がとれない?と思いきや、実はそうではありません。

私が行ったときは乾季。ベストシーズンではなかったということもありますが、当日でも予約ができました。そして、なんと宿泊者は私を含めて3人という、ほぼ貸し切り状態。

それも、そのはず。塩のホテルには、シャワーがありません。水洗トイレはありますが、水は流れません(そのため使用後は、自分でバケツの水をトイレに流し入れ人工的に水洗トイレを造ります)。水が貴重なので洗面台も自由に使える蛇口もなく、顔を洗ったり手を洗ったりは難しい状態。

また電気もなしです(10人以上宿泊すると通電してくれるとか)。

食事はつきますが、水も食糧も調理法も全てが限られているので、とても簡単なものです。夕食は、管理人さんが自家発電機を使って調理をしてくれた食事をロウソクの炎の中で食べます。夜は真っ暗になるので、懐中電灯を一人一台レンタルし、ミネラルウォーターで歯磨きをしました。

後から知ったことですが、こんな不便なホテルなので、お客さんがくるのは昼間がメイン。だいたいの人は、塩のホテルとして調度品などをサラリと見物した後、次の目的地に向かって行くのだそう。

一日くらいシャワーを浴びれなくても、ペットボトル水を持参しない限り歯磨きができないとしても私は全く気にならなかったのでOKですが、もし塩のホテルに宿泊される予定のある方はぜひご注意を。

ウユニには、ちゃんとバスルームがある高級な塩のホテルもあります。なかには、映画『007』に出てきてもおかしくないような、立派&豪華なまるでお城のようなホテルも。
値段と施設内容は=(イコール)なので、もし宿泊される場合は設備内容を確認してから、にしてくださいね。

ウユニ04

小さい頃から憧れていた、塩のホテルに宿泊した私。先住民族の管理人さんとも仲良くなり、満ち足りた気持ちで翌朝を迎えました。
しかしチェックアウト直後に、悲しい現実を目にします。

憧れの場所で目の当たりにした、悲しい問題とは…。次回ご紹介します。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

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