人気のキーワード
★隙間時間にコラムを読むならアプリがオススメ★
イザナギノミコト、イザナミノミコト。この名の由来は、誘う(いざなう)にあるといいます。
惹かれ誘い合い、そして夫婦となった二柱。この国を生み、そしてここに住まう八百万の神を生みました。また、このイザナギ・イザナミは、私たちの永遠のテーマ、生と死の定めについても語っています。
この大地と、豊かな自然を司る神々、そして私たちの暮らしの礎となるあらゆるものの神々をもたらしたとされるイザナギとイザナミ。この夫婦神の物語は、私たちと、私たちを取り巻くすべてのもののルーツを紐解く物語でもあるのです。
天津神
日本の国土・八百万の神
伊弉諾神宮、自凝島神社、多賀大社、三峯神社、江田神社など
国生みの神、神生みの神
夫婦和合、恋愛成就子宝、安産祈願
日本神話で語られるこの世界のはじまり、天地開闢(てんちかいびゃく)。天地がはじめて分かれたそのとき、神々が現れます。
まず高天原(たかまがはら=神々が暮らすことになる天上界)には、性別をもたない「独神(ひとりがみ)」が三柱現れ、すぐに姿を隠しました。
地上はというと、水に浮く脂のよう。まだ若くクラゲのように漂う状態のなかに、二柱の独神が成り、こちらもまたすぐに姿を隠します。
天地が分かれたこのはじめのときに現れたこれら五柱を、特別な神様「別天つ神(ことあまつかみ)」といいます。
さらに神が成ります。独神が二柱、そのあと男女対となった5組十柱の神々です。この神々を合わせて「神世七代(かみよななよ)」といいます。
神代七世の最後に成ったのが、イザナギ・イザナミの二柱。イザナギ・イザナミの語源は「誘う(いざなう)」にあるともいわれています。「ギ(キ)」は男性を、「ミ」は女性を示す言葉です。誘い合い、契りを結ぶ日本最初の夫婦神ともされているのです。
ここまでに成った神々は、すべてのはじまりを象徴し、さらに大地が安定し整うさまを表しているといいます。そしてここから、イザナギ・イザナミによる国生み・神生み、この国のはじまりの物語へと続いていくのです。
イザナギ・イザナミの物語は、とても壮大で神秘的なもの。私たちの暮らすこの国が二柱によって形作られ、そしてあの有名な神々も生まれます。
神世七代の神々のうち最後に成ったイザナギ・イザナミは、高天原に住まう神々の総意で、国生みを命じられます。
「この漂へる国を修理(つくろ)ひ固め成せ」(この漂っている国土を、整え固めなさい)
そして、美しい玉飾りのついた天沼矛(あめのぬぼこ)が授けられました。
イザナギ・イザナミは天地の間にかかる「天の浮橋」にともに立ち、その天沼矛を下ろして下界の海に差し入れ、「こおろ こおろ」かき回します。
「こおろ こおろ」は、液体をゆっくりかき回す様子を表した、古い古いオノマトペ。
そして矛を引き上げると、矛先から海水のしずくがぽたりぽたりと滴り、しだいに積もり固まって、やがて島ができました。これが淤能碁呂島(おのごろじま)です。
二柱はこの淤能碁呂島に降り立つと、太く高い天之御柱(あめのみはしら)を立て、大きな宮殿八尋殿(やひろどの)を建てました。
イザナギがイザナミに尋ねます。「おまえの体はどのようになっているのか?」イザナミは「私の体はできあがっているのですが、一ヶ所だけ足りず整わないところがあります」と答えました。
するとイザナミは「私の体もできあがっているのだが、一ヶ所だけ余り、整わないところがある。ならばおまえのその足りないところと私の余ったところを合わせ、そして国を生むのはどうだろうか」
そして二柱は天之御柱のまわりを、右から、左から、それぞれ回り、出会ったところで、「なんていい男!」「なんていい女!」と、互いを褒める言葉を交わし、そして契りを結びました。
こうして惹かれ合い、夫婦となった男女二柱による命の営みのようにして、国生みがはじまるのです。
一番はじめに生まれたのは淡道之穂狭別島(あわじのほのさわけのしま)。今の淡路島だといわれています。次に伊予之二名島(いよのふたなのしま)、四国です。そして隠伎之三子島(おきのみつごのしま)、今の隠岐諸島。
島は次々に生まれ、八つとなります。日本神話で生まれる日本の国土です。ここから、大八島国(=大八洲国、おおやしまぐに)という、日本の古称も生まれました。
また二柱は帰る際にさらに六つの島を生みました。
これで、イザナギ・イザナミの国生みは完結、日本の国土の土台となるのです。
国生みを終えたイザナギ・イザナミは、続いて大八島に住まうべき神々を生みます。
あわせて十七柱。私たちを取り囲む、あらゆるものの神々が生まれたともいえます。
そしてイザナギ・イザナミが生んだ神たちも、さらに神を生みました。
この十六柱はイザナギ・イザナミの孫にあたるといえるでしょうか。
しかし、この神生みでイザナミは火の神火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を生む際に、そのホト(陰部)に大火傷を負ってしまいます。
臥せってしまうイザナミ。その嘔吐したものから、また垂れ流した糞尿からも、次々に神が成りました。
そしてイザナミは神避(かむさ=神が亡くなる)ってしまうのです。
イザナギは「愛しい妻の命が、一人の子どもと引き換えになってしまうとは」と、息を引き取ったイザナミの枕元に突っ伏し、また足元に倒れ込んでむせび泣いたのでした。するとその涙からもまた神が成りました。
■泉に関わる一柱
イザナミの亡骸は、出雲国(いずものくに=現在の島根県東部)と伯伎国(ははきのくに=現在の鳥取県中西部)の境にある比婆之山(ひばのやま)に葬られました。
悲劇が続きます。突然のイザナミの死に悲しみがおさまらないイザナギは、自らの十拳剣を引き抜き、イザナミの死の原因となってしまったヒノカグツチの首を斬り、殺してしまうのです。
血はほとばしり、岩に走り付き、剣の刃にも付きました。剣の柄を握るイザナギのその指の間からも溢れ出ます。するとそこからも神が成りました。
そして斬られたヒノカグツチの頭や胸、腹などからも次々と神が生まれたのでした。
■山に関わる八柱
こうして、夫婦神による国生み神生みは、イザナミの死によって終わりを迎えたのです。
どうしてもイザナミのことが忘れられないイザナギは、そのあとを追い黄泉国(よみのくに)を訪れます。
そしてイザナミに語りかけます。「愛おしい妻よ、私とあなたで作る国はまだ完成していない、さあ、帰ろう」
しかしイザナミは、すでに黄泉国の食べ物を口にした後。この国の住人となってしまっていたのでした。それでもイザナギの熱意に心うごかされたイザナミは、黄泉神(ヨモツカミ)に相談することにします。そのあいだ決して自分を見ないように、そうイザナギに言い置いて御殿に入っていったのです。
ずいぶん長い時間が経ち、居ても立ってもいられなくなったイザナギは、ついに約束を破り、自分の髪に刺してあった湯津々間櫛(ゆつつまぐし)の歯を一本折り、そこに火を灯して御殿に入ります。
そこで目にしたのは、身体は腐りウジが這い回る、なんとも変わり果てたイザナミの姿。しかも体のあらゆるところから、恐ろしい雷神がいくつも成り出ています。
慌てふためいて逃げ出したイザナギ。おぞましい姿を見られたイザナミは「よくも恥をかかせたな!」と、予母都志許売(よもつしこめ)や雷神たち、黄泉の国ものたちをけしかけます。
イザナギは、黒御蔓(くろみかずら)や湯津々間櫛、また桃の実を投げ付けながら、黄泉比良坂(よもつひらさか)まで逃げました。この黄泉比良坂は、死者の国黄泉国と生者の国葦原中国(あしはらのなかつくに=日本の古称)を隔てている坂だとされます。
そしてここでついにイザナギに追いついたイザナミ。するとイザナギは、千人がかりで動かすほどに大きな「千引の石(ちびきのいわ)」で、この黄泉比良坂を塞ぎます。岩は元々霊力が宿り、邪気の侵入を防ぐ力があるとされるもの。イザナギはこれで死者と生者の世界を隔てたのです。
千引の石を挟んで差し向かい、二柱は別れの呪い「事戸(ことど)」を口にします。
イザナミが「愛しいあなた、あなたがそうなさるなら、あなたの治める国の人々を日ごと千人しめ殺しましょう」というと、イザナミからは「愛しいおまえ、おまえがそうするならば、私は日ごと千五百人を生ませてみせよう」と返しました。こうしてイザナミは黄泉国、イザナギは葦原中国と住む世界を分ち、二柱は永遠に決別の時を迎えるのです。
一日に千人が死に、そして千五百人が生まれる。こうして、この世の生と死の定め、人間の寿命が生まれたと伝えているのです。
黄泉国から戻ったイザナギは、「自分はなんと嫌な、穢らわしい国に行ってしまったのだろう。この身の禊(みそぎ)をしなければ」と、筑紫の日向の橘小門の阿波岐原(つくしのひむかのたちばなのおどのあわきはら=現在の宮崎県宮崎市のあたりの河口のことか)で禊祓いをします。
黄泉国で身についたケガレを落とすため、イザナギがその身に付けていたものを外すと、そこから次々と神が成ります。
さらに水に体を浸して濯ぐと、黄泉国で付いた垢からも神が成りました。
そして水に体を沈め、浮かび上がるまでに、水底・水中・水面でも二柱ずつ、あわせて六柱の神が成ります。
そしてイザナギは、その禊の最後に顔を濯いだのです。
左の目を濯ぐと、そこから天照大御神(アマテラスオオミカミ)が成りました。そして右の目からは月読命(ツクヨミノミコト)が、また鼻からは須佐之男命(スサノオノミコト)が成ったのです。
この三柱が成ると、イザナギは「私は多くの子を生んできたが、その終いに三柱の貴い子を得た」と大いに喜びました。
三貴子(みはしらのうずのみこ)と呼ばれるこの三柱。八百万の神の中でも尊いとされる神々です。
イザナギ・イザナミはあまたの神々を生み落としますが、その中でも物語のポイントとなる神を紹介しましょう。
イザナギの禊祓いで成った八百万の神の中でも、とくに尊いとされる三柱のきょうだい神です。
ご存知、すべての生命の根源ともいえる太陽を司る女神、そして神々の世界を統べる最高神です。
天皇の祖神、日本の総氏神とされており、伊勢神宮内宮に祀られます。世界をあまねく照らし続ける、特別な存在です。
三貴子の中では少し控えめな印象ですが、太陽を司り昼の世界を治めるアマテラスと対となり、夜の世界を治める神様です。
古の時代、人々は月の満ち欠けを読み、農耕の指標としました。神話の中では食物の起源のきっかけをもたらした神としても描かれ、私たちの暮らしに大いに関わりのある神様なのです。
三貴子の末っ子は、たいへんな暴れん坊で知られるこの神様。人間味あふれ、なんとも魅力的です。
高天原では姉の天照大御神を大いに困らせ追放されてしまいますが、そののち出雲国では人々を悩ませる化け物八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治して英雄に。
さらには根の国の統治者となり、のちに日本の国造りを進めることになる大国主命(オオクニヌシノミコト)の力を引き出す手助け(?)もしています。
イザナミが神避る原因となってしまった神様。
燃え盛る火に包まれるこの火の神ヒノカグツチを生んだイザナミは、その陰部に大火傷を負ってしまったのでした。
生まれたばかりにもかかわらず、イザナミを失った悲しみと怒りから、父イザナミに首を斬られ殺されてしまいます。
その血と身体からは、産業などに関わる多くの神々が成りました。
八百万の神の中でも特別な存在であるこの二柱ですが、意外にもお祀りする神社は少ないようです。そんな中でも、神話の世界が色濃く残る歴史のある神社がいくつかあげられます。
淡路国一宮である伊弉諾神宮。イザナギが、自らが身に付けていた首飾りをアマテラスに授けて高天原の統治を命じたあと、国生みのはじめに生んだ淡路島に戻り、「幽宮(かくりみや)」を建てて余生を過ごしたと伝わる場所です。
この伊弉諾神宮は、春分・秋分の日、太陽が通過する北緯34度27分23秒に位置します。その同一線上には伊勢神宮内宮、対馬の海神神社も並ぶのだそう。つまり春分・秋分の日には、この伊弉諾神宮からみると伊勢神宮内宮の方向から朝日が昇り、海神神社に沈む、というのです。
さらに夏至には諏訪大社、出雲大社と同一線上、冬至には熊野那智大社、宮崎県の高千穂神社、天岩戸神社と同一線上に。
まるで、イザナギの子、太陽を司るアマテラスが、神話が宿る土地をなぞっていくかのようです。
【伊弉諾神宮】
所在地:兵庫県淡路市多賀740
「おのころじまじんじゃ」と読みます。そう、イザナギ・イザナミが「こおろこおろ」とかき回し、海水が固まったとされるあの島の名です。
縁結び、安産の神様として知られ、高さ21.7mという聳えるばかりの朱塗りの大鳥居が目を引きます。この鳥居は日本三大鳥居の一つ。
神社の西側、「お砂所」にあるのは、天沼矛から滴り落ちたあの時の塩なのだとか。安産の神様として多くの方が訪れるそうです。
【自凝島神社】
所在地:兵庫県南あわじ市榎列下幡多415
比婆山に葬られたとされたイザナミの亡骸。じつはこの花窟神社もイザナミを葬った地として知られ、人々が季節の花々を持ち寄り祀ったとされるのがこの名の由来です。イザナミとともにヒノカグツチも御祭神として祀られています。
古より社殿はなく、熊野灘に面して聳える高さ45mという巨大な磐座(いわくら)がご神体です。
2月と10月の年2回行われる「お縄かけ神事」。氏子たちによって撚られた7本の縄が束ねられた170mにもおよぶ大縄が登場します。この7本は七柱の自然神を表しているのだそう。そして大縄には、花々が飾られたアマテラス・ツクヨミ・スサノオの三貴子を表す3本の幡が吊るされます。
磐座の上から境内の御神木の松に渡された大縄、もう一方の端は多くの人々によって七里御浜にまで引かれていきます。
この花の窟を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」は、平成16年世界遺産に登録されました。
【花窟神社】
所在地:三重県熊野市有馬町130
日本最古といわれる歴史書『古事記』。天地のはじまりから推古天皇までの時代を、とても豊かな表現で物語のように描いています。ただ、原文は漢文と万葉仮名を用いた文体でちょっと難解。
この『古事記のものがたり』は、そんな『古事記』の神話の豊かな世界を、小学校低学年でも読むことができるよう、わかりやすく、とても丁寧に読み解いています。
この国に、命を吹き込んだイザナギとイザナミ。
誰に言われずとも、春になると一斉に草木が芽吹き、動き出す。たしかに、この大地は大きな大きな命のかたまりのようでもあります。
そして、この風にも、小さな米粒にも、さっき蹴飛ばした石ころにも、森羅万象に宿る神々。
そう。じつは、イザナギとイザナミが生んだ命に満ち満ちた世界に、今私たちは立っているのです。
秩序をたもつ日本の「太陽神」。弟のスサノオをきっかけに岩に引き籠り、天界は大混乱!▼
奔放で暴れん坊。荒々しいスサノオが化け物を倒すヒーローに。八つの首を持つ化け物を退治した方法とは?▼
イザナギノミコト、イザナミノミコト。
この名の由来は、誘う(いざなう)にあるといいます。
惹かれ誘い合い、そして夫婦となった二柱。
この国を生み、そしてここに住まう八百万の神を生みました。
また、このイザナギ・イザナミは、私たちの永遠のテーマ、生と死の定めについても語っています。
この大地と、豊かな自然を司る神々、そして私たちの暮らしの礎となるあらゆるものの神々をもたらしたとされるイザナギとイザナミ。
この夫婦神の物語は、私たちと、私たちを取り巻くすべてのもののルーツを紐解く物語でもあるのです。
目次
イザナギ・イザナミってどんな神様?
天津神
日本の国土・八百万の神
伊弉諾神宮、自凝島神社、多賀大社、三峯神社、江田神社など
国生みの神、神生みの神
ご利益
夫婦和合、恋愛成就子宝、安産祈願
天地のはじまりに成ったイザナギ・イザナミ
日本神話で語られるこの世界のはじまり、天地開闢(てんちかいびゃく)。
天地がはじめて分かれたそのとき、神々が現れます。
まず高天原(たかまがはら=神々が暮らすことになる天上界)には、性別をもたない「独神(ひとりがみ)」が三柱現れ、すぐに姿を隠しました。
地上はというと、水に浮く脂のよう。
まだ若くクラゲのように漂う状態のなかに、二柱の独神が成り、こちらもまたすぐに姿を隠します。
天地が分かれたこのはじめのときに現れたこれら五柱を、特別な神様「別天つ神(ことあまつかみ)」といいます。
さらに神が成ります。
独神が二柱、そのあと男女対となった5組十柱の神々です。
この神々を合わせて「神世七代(かみよななよ)」といいます。
神代七世の最後に成ったのが、イザナギ・イザナミの二柱。
イザナギ・イザナミの語源は「誘う(いざなう)」にあるともいわれています。
「ギ(キ)」は男性を、「ミ」は女性を示す言葉です。
誘い合い、契りを結ぶ日本最初の夫婦神ともされているのです。
ここまでに成った神々は、すべてのはじまりを象徴し、さらに大地が安定し整うさまを表しているといいます。
そしてここから、イザナギ・イザナミによる国生み・神生み、この国のはじまりの物語へと続いていくのです。
イザナギ・イザナミにまつわる神話
イザナギ・イザナミの物語は、とても壮大で神秘的なもの。
私たちの暮らすこの国が二柱によって形作られ、そしてあの有名な神々も生まれます。
国土創世の物語「国生み」
神世七代の神々のうち最後に成ったイザナギ・イザナミは、高天原に住まう神々の総意で、国生みを命じられます。
「この漂へる国を修理(つくろ)ひ固め成せ」
(この漂っている国土を、整え固めなさい)
そして、美しい玉飾りのついた天沼矛(あめのぬぼこ)が授けられました。
イザナギ・イザナミは天地の間にかかる「天の浮橋」にともに立ち、その天沼矛を下ろして下界の海に差し入れ、「こおろ こおろ」かき回します。
「こおろ こおろ」は、液体をゆっくりかき回す様子を表した、古い古いオノマトペ。
そして矛を引き上げると、矛先から海水のしずくがぽたりぽたりと滴り、しだいに積もり固まって、やがて島ができました。これが淤能碁呂島(おのごろじま)です。
二柱はこの淤能碁呂島に降り立つと、太く高い天之御柱(あめのみはしら)を立て、大きな宮殿八尋殿(やひろどの)を建てました。
イザナギがイザナミに尋ねます。
「おまえの体はどのようになっているのか?」
イザナミは「私の体はできあがっているのですが、一ヶ所だけ足りず整わないところがあります」と答えました。
するとイザナミは「私の体もできあがっているのだが、一ヶ所だけ余り、整わないところがある。ならばおまえのその足りないところと私の余ったところを合わせ、そして国を生むのはどうだろうか」
そして二柱は天之御柱のまわりを、右から、左から、それぞれ回り、出会ったところで、
「なんていい男!」
「なんていい女!」と、互いを褒める言葉を交わし、そして契りを結びました。
こうして惹かれ合い、夫婦となった男女二柱による命の営みのようにして、国生みがはじまるのです。
一番はじめに生まれたのは淡道之穂狭別島(あわじのほのさわけのしま)。今の淡路島だといわれています。
次に伊予之二名島(いよのふたなのしま)、四国です。そして隠伎之三子島(おきのみつごのしま)、今の隠岐諸島。
島は次々に生まれ、八つとなります。
日本神話で生まれる日本の国土です。
ここから、大八島国(=大八洲国、おおやしまぐに)という、日本の古称も生まれました。
また二柱は帰る際にさらに六つの島を生みました。
これで、イザナギ・イザナミの国生みは完結、日本の国土の土台となるのです。
八百万の神が成った「神生み」
国生みを終えたイザナギ・イザナミは、続いて大八島に住まうべき神々を生みます。
あわせて十七柱。
私たちを取り囲む、あらゆるものの神々が生まれたともいえます。
そしてイザナギ・イザナミが生んだ神たちも、さらに神を生みました。
この十六柱はイザナギ・イザナミの孫にあたるといえるでしょうか。
しかし、この神生みでイザナミは火の神火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)を生む際に、そのホト(陰部)に大火傷を負ってしまいます。
臥せってしまうイザナミ。
その嘔吐したものから、また垂れ流した糞尿からも、次々に神が成りました。
そしてイザナミは神避(かむさ=神が亡くなる)ってしまうのです。
イザナギは「愛しい妻の命が、一人の子どもと引き換えになってしまうとは」と、息を引き取ったイザナミの枕元に突っ伏し、また足元に倒れ込んでむせび泣いたのでした。
するとその涙からもまた神が成りました。
■泉に関わる一柱
イザナミの亡骸は、出雲国(いずものくに=現在の島根県東部)と伯伎国(ははきのくに=現在の鳥取県中西部)の境にある比婆之山(ひばのやま)に葬られました。
悲劇が続きます。
突然のイザナミの死に悲しみがおさまらないイザナギは、自らの十拳剣を引き抜き、イザナミの死の原因となってしまったヒノカグツチの首を斬り、殺してしまうのです。
血はほとばしり、岩に走り付き、剣の刃にも付きました。剣の柄を握るイザナギのその指の間からも溢れ出ます。するとそこからも神が成りました。
そして斬られたヒノカグツチの頭や胸、腹などからも次々と神が生まれたのでした。
■山に関わる八柱
こうして、夫婦神による国生み神生みは、イザナミの死によって終わりを迎えたのです。
イザナミを追って黄泉国へ
どうしてもイザナミのことが忘れられないイザナギは、そのあとを追い黄泉国(よみのくに)を訪れます。
そしてイザナミに語りかけます。
「愛おしい妻よ、私とあなたで作る国はまだ完成していない、さあ、帰ろう」
しかしイザナミは、すでに黄泉国の食べ物を口にした後。この国の住人となってしまっていたのでした。
それでもイザナギの熱意に心うごかされたイザナミは、黄泉神(ヨモツカミ)に相談することにします。そのあいだ決して自分を見ないように、そうイザナギに言い置いて御殿に入っていったのです。
ずいぶん長い時間が経ち、居ても立ってもいられなくなったイザナギは、ついに約束を破り、自分の髪に刺してあった湯津々間櫛(ゆつつまぐし)の歯を一本折り、そこに火を灯して御殿に入ります。
そこで目にしたのは、身体は腐りウジが這い回る、なんとも変わり果てたイザナミの姿。
しかも体のあらゆるところから、恐ろしい雷神がいくつも成り出ています。
慌てふためいて逃げ出したイザナギ。
おぞましい姿を見られたイザナミは「よくも恥をかかせたな!」と、予母都志許売(よもつしこめ)や雷神たち、黄泉の国ものたちをけしかけます。
イザナギは、黒御蔓(くろみかずら)や湯津々間櫛、また桃の実を投げ付けながら、黄泉比良坂(よもつひらさか)まで逃げました。
この黄泉比良坂は、死者の国黄泉国と生者の国葦原中国(あしはらのなかつくに=日本の古称)を隔てている坂だとされます。
そしてここでついにイザナギに追いついたイザナミ。
するとイザナギは、千人がかりで動かすほどに大きな「千引の石(ちびきのいわ)」で、この黄泉比良坂を塞ぎます。
岩は元々霊力が宿り、邪気の侵入を防ぐ力があるとされるもの。イザナギはこれで死者と生者の世界を隔てたのです。
千引の石を挟んで差し向かい、二柱は別れの呪い「事戸(ことど)」を口にします。
イザナミが「愛しいあなた、あなたがそうなさるなら、あなたの治める国の人々を日ごと千人しめ殺しましょう」というと、
イザナミからは「愛しいおまえ、おまえがそうするならば、私は日ごと千五百人を生ませてみせよう」と返しました。
こうしてイザナミは黄泉国、イザナギは葦原中国と住む世界を分ち、二柱は永遠に決別の時を迎えるのです。
一日に千人が死に、そして千五百人が生まれる。
こうして、この世の生と死の定め、人間の寿命が生まれたと伝えているのです。
三貴子が生まれた禊祓い
黄泉国から戻ったイザナギは、
「自分はなんと嫌な、穢らわしい国に行ってしまったのだろう。この身の禊(みそぎ)をしなければ」
と、筑紫の日向の橘小門の阿波岐原(つくしのひむかのたちばなのおどのあわきはら=現在の宮崎県宮崎市のあたりの河口のことか)で禊祓いをします。
黄泉国で身についたケガレを落とすため、イザナギがその身に付けていたものを外すと、そこから次々と神が成ります。
さらに水に体を浸して濯ぐと、黄泉国で付いた垢からも神が成りました。
そして水に体を沈め、浮かび上がるまでに、水底・水中・水面でも二柱ずつ、あわせて六柱の神が成ります。
そしてイザナギは、その禊の最後に顔を濯いだのです。
左の目を濯ぐと、そこから天照大御神(アマテラスオオミカミ)が成りました。
そして右の目からは月読命(ツクヨミノミコト)が、また鼻からは須佐之男命(スサノオノミコト)が成ったのです。
この三柱が成ると、イザナギは「私は多くの子を生んできたが、その終いに三柱の貴い子を得た」と大いに喜びました。
三貴子(みはしらのうずのみこ)と呼ばれるこの三柱。八百万の神の中でも尊いとされる神々です。
イザナギ・イザナミと関係の深い神さま
イザナギ・イザナミはあまたの神々を生み落としますが、その中でも物語のポイントとなる神を紹介しましょう。
禊から成った三貴子
イザナギの禊祓いで成った八百万の神の中でも、とくに尊いとされる三柱のきょうだい神です。
天照大御神(アマテラスオオミカミ)
ご存知、すべての生命の根源ともいえる太陽を司る女神、そして神々の世界を統べる最高神です。
天皇の祖神、日本の総氏神とされており、伊勢神宮内宮に祀られます。
世界をあまねく照らし続ける、特別な存在です。
月読命(ツクヨミノミコト)
三貴子の中では少し控えめな印象ですが、太陽を司り昼の世界を治めるアマテラスと対となり、夜の世界を治める神様です。
古の時代、人々は月の満ち欠けを読み、農耕の指標としました。
神話の中では食物の起源のきっかけをもたらした神としても描かれ、私たちの暮らしに大いに関わりのある神様なのです。
須佐之男命(スサノオノミコト)
三貴子の末っ子は、たいへんな暴れん坊で知られるこの神様。人間味あふれ、なんとも魅力的です。
高天原では姉の天照大御神を大いに困らせ追放されてしまいますが、そののち出雲国では人々を悩ませる化け物八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治して英雄に。
さらには根の国の統治者となり、のちに日本の国造りを進めることになる大国主命(オオクニヌシノミコト)の力を引き出す手助け(?)もしています。
火之迦具土神(ヒノカグツチノカミ)
イザナミが神避る原因となってしまった神様。
燃え盛る火に包まれるこの火の神ヒノカグツチを生んだイザナミは、その陰部に大火傷を負ってしまったのでした。
生まれたばかりにもかかわらず、イザナミを失った悲しみと怒りから、父イザナミに首を斬られ殺されてしまいます。
その血と身体からは、産業などに関わる多くの神々が成りました。
イザナギ・イザナミをお祀りしている神社
八百万の神の中でも特別な存在であるこの二柱ですが、意外にもお祀りする神社は少ないようです。
そんな中でも、神話の世界が色濃く残る歴史のある神社がいくつかあげられます。
伊弉諾神宮/兵庫県
淡路国一宮である伊弉諾神宮。
イザナギが、自らが身に付けていた首飾りをアマテラスに授けて高天原の統治を命じたあと、国生みのはじめに生んだ淡路島に戻り、「幽宮(かくりみや)」を建てて余生を過ごしたと伝わる場所です。
この伊弉諾神宮は、春分・秋分の日、太陽が通過する北緯34度27分23秒に位置します。その同一線上には伊勢神宮内宮、対馬の海神神社も並ぶのだそう。
つまり春分・秋分の日には、この伊弉諾神宮からみると伊勢神宮内宮の方向から朝日が昇り、海神神社に沈む、というのです。
さらに夏至には諏訪大社、出雲大社と同一線上、冬至には熊野那智大社、宮崎県の高千穂神社、天岩戸神社と同一線上に。
まるで、イザナギの子、太陽を司るアマテラスが、神話が宿る土地をなぞっていくかのようです。
【伊弉諾神宮】
所在地:兵庫県淡路市多賀740
自凝島神社/兵庫県
「おのころじまじんじゃ」と読みます。
そう、イザナギ・イザナミが「こおろこおろ」とかき回し、海水が固まったとされるあの島の名です。
縁結び、安産の神様として知られ、高さ21.7mという聳えるばかりの朱塗りの大鳥居が目を引きます。この鳥居は日本三大鳥居の一つ。
神社の西側、「お砂所」にあるのは、天沼矛から滴り落ちたあの時の塩なのだとか。
安産の神様として多くの方が訪れるそうです。
【自凝島神社】
所在地:兵庫県南あわじ市榎列下幡多415
花窟神社/三重県
比婆山に葬られたとされたイザナミの亡骸。
じつはこの花窟神社もイザナミを葬った地として知られ、人々が季節の花々を持ち寄り祀ったとされるのがこの名の由来です。
イザナミとともにヒノカグツチも御祭神として祀られています。
古より社殿はなく、熊野灘に面して聳える高さ45mという巨大な磐座(いわくら)がご神体です。
2月と10月の年2回行われる「お縄かけ神事」。
氏子たちによって撚られた7本の縄が束ねられた170mにもおよぶ大縄が登場します。この7本は七柱の自然神を表しているのだそう。
そして大縄には、花々が飾られたアマテラス・ツクヨミ・スサノオの三貴子を表す3本の幡が吊るされます。
磐座の上から境内の御神木の松に渡された大縄、もう一方の端は多くの人々によって七里御浜にまで引かれていきます。
この花の窟を含む「紀伊山地の霊場と参詣道」は、平成16年世界遺産に登録されました。
【花窟神社】
所在地:三重県熊野市有馬町130
古事記にふれる
日本最古といわれる歴史書『古事記』。
天地のはじまりから推古天皇までの時代を、とても豊かな表現で物語のように描いています。ただ、原文は漢文と万葉仮名を用いた文体でちょっと難解。
この『古事記のものがたり』は、そんな『古事記』の神話の豊かな世界を、小学校低学年でも読むことができるよう、わかりやすく、とても丁寧に読み解いています。
ここにもそこにも
この国に、命を吹き込んだイザナギとイザナミ。
誰に言われずとも、春になると一斉に草木が芽吹き、動き出す。
たしかに、この大地は大きな大きな命のかたまりのようでもあります。
そして、この風にも、小さな米粒にも、さっき蹴飛ばした石ころにも、森羅万象に宿る神々。
そう。
じつは、イザナギとイザナミが生んだ命に満ち満ちた世界に、今私たちは立っているのです。
関連記事
秩序をたもつ日本の「太陽神」。弟のスサノオをきっかけに岩に引き籠り、天界は大混乱!▼
奔放で暴れん坊。荒々しいスサノオが化け物を倒すヒーローに。八つの首を持つ化け物を退治した方法とは?▼