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キョンシーはなぜ額にお札を付けているのか、あのお札には何が書かれているのか、取るとどうなるのか──そんな疑問を持ったことはありませんか?
実は、キョンシーとそのお札には、中国の神話にまで遡る歴史と思想が詰まっているのです。キョンシーやお札の起源、込められた思想や原理、キョンシーになる方法まで徹底して紹介しましょう!きっと、想像を超える壮大な世界観に圧倒されますよ♪
額にお札を貼られてぴょんぴょん跳ねる姿で映画やドラマに登場し、一度見たら忘れられない中国妖怪、「キョンシー」。ゾンビや吸血鬼、幽霊といったホラー界の個性派スター達がしのぎを削るアンデッド業界(?)でも、キョンシーの存在感は群を抜いています。
恐ろしくもどこかコミカルな要素もあるキョンシーとは、どんな存在なのでしょうか?
キョンシーとは、古くから中国で語り継がれてきた妖怪で、中国語では「僵尸(ジャンシー)」、日本の漢字では「殭屍(きょうし)」と書きます。
僵尸とは、道教の書物『大千録』に登場する言葉で、僵は「硬直した」、尸は「死体」という意味。つまり、死後硬直した死体が動く、いわゆるアンデッドなのです。中国でいつからキョンシーが語られ始めたのかについては諸説あります。特に有名な説を紹介しましょう!
キョンシーの起源とされる奇妙な逸話が、湖南省にある湘西周辺で伝わっています。
明から清の時代にかけて、湘西は戦乱が続きました。山が多いこの地域では、多くの遺体を故郷に送り届けるのはとても困難。そのため、道士が「趕屍(ガンシー、かんし)」という術で遺体を動かして運んだといいます。
もう一つの有力説ははるかに古い時代まで遡り、その起源はなんと、中国の神話!
伝説の皇帝「黄帝」が「蚩尤(しゆう)」という神と戦った際に活躍したのが、黄帝の娘の「妭(ばつ)」です。妭は強大な熱の力を司る美しい女神で、蚩尤配下の神「雨師」や「風伯」の風雨を退け、黄帝を助けました。
しかし力を使い果たした妭は天に戻れなくなり、周囲に日照りをもたらす存在になってしまったのです。黄帝は妭を係昆山に幽閉し、彼女は日照りを意味する「魃(ばつ)」と呼ばれるようになりました。
こうして魃は、最初のキョンシーとなってしまったのです。なんともやるせない話ですが…。
この話にはいくつかのバージョンがあり、妭がキョンシーになったのは蚩尤の呪いだとする話や、蚩尤が兵士の遺体を動かして運ぶ方法を研究させた、などの話もあります。
神話が起源だとすると、キョンシーは黎明期から中国文明とともにあった存在といえるでしょう。
キョンシーは非常に個性的ですよね。どんな特徴があるか、詳しくみてみましょう!
<現代のキョンシーのイメージ>
映画やドラマに登場するキョンシーは、多くの場合、以下のように描かれます。
なんだかたくさん特徴がありますね!
このうち服装については、清の時代、死者に官僚の服を着せた風習が反映されています。死後の栄達を願って、特権階級である官僚の服を着せたのです。
ここで紹介したキョンシーのイメージは、近年の映画やドラマによって一気に定着しました。しかし、このような特徴の多くは、中国の古典でも見られるのです。
<古典に描かれたキョンシー>
明から清代にかけて書かれた多くの文学作品に、キョンシーが登場します。例えば、『西遊記』に登場する妖怪「白骨夫人」も、キョンシーと考えられます。
18世紀に書かれた2つの怪異小説『子不語(しふご)』『閲微草堂筆記(えつびそうどうひっき)』は、特にキョンシーについての情報量が多く、後世のキョンシー像に大きく影響しました。
『子不語』にはキョンシーについて、「硬い死体が蘇る」「死体だが腐らず、髪が伸びる」「夜に動き出すが、鶏が鳴くと活動が弱まる」「火に弱い」などの描写が。『閲微草堂筆記』にも、「鏡に反射した光に弱い」といった記載があります。
映画もドラマもない時代にこれほど明確なキョンシーのイメージが出来上がっていたとは、驚きです。やはりキョンシーは実在するのでしょうか…?
中国では近代以降も、たびたびキョンシーが出現しています。
1872年、ベトナム国境に近い広西チワン族自治区で怪事件が起きました。
山奥の村で阿牛という男がキョンシー化し、村人20人以上が犠牲になったのです。村ごと山を焼き払ったところ、事件は収まったといいます。
一説には、この事件はイギリス人による略奪を隠蔽するためのでっちあげともされます。
1995年、成都郊外の青城山で清代のミイラが発見されました。しかしどういうわけか、ミイラは数日のうちに行方不明に。
その直後、成都の府南河(現在の錦江)付近で10体以上のキョンシーの目撃が相次いだのです。なかには、キョンシーがビルの3階までジャンプする場面を見たという話も。
最終的に軍が動員され、火炎放射器でキョンシーを焼き尽くしたとされます。その後、府南河からなぜか多数の焼死体が発見されたのです。
地元では、道教の聖地である青城山に眠っていた伝説のキョンシーが、ミイラ発見をきっかけに目覚めたと噂されています。
2005年、四川省南充市の山中で古代の石棺が発見されました。中にはもち米が巻き付けられた遺体が入っており、額には黄色いお札が貼られ、さらに奇妙なことに、湿度が高い気候にもかかわらず腐敗していませんでした。
この発見ののち、携帯電話から妨害音が鳴る、ラジオから奇妙な声が聞こえるなどの怪現象が相次いだといいます。
この事件は、ネット時代ならではのフェイク情報が加わりながら、どんどん話に尾ひれがついていったのが実情とされます。真相はさておき、現在の中国でもキョンシーは実在すると考えられていることが表れていますね。
1985年、香港でキョンシー映画『霊幻道士』が公開され、翌年には日本でも大ヒット!これを受けて台湾映画『幽幻道士』やそのテレビシリーズも制作され、キョンシーブームが巻き起こりました。
なお、香港で話される広東語では。「僵尸」の発音はガンシー。それを日本の映画配給会社がキョンシーと表記し、これが呼び名として定着したようです。
キョンシーのインパクトはあまりに強く、日本では漫画やゲームなどで、数々の中国キャラがキョンシーとして描かれるようになりました。いまや日本では、恐ろしい妖怪というよりも愛されキャラとして認知されつつあります。
キョンシーは、中国文化を代表する存在になったといえるでしょう。
キョンシーの額に貼られているお札。あのお札があることで一気に中国っぽさが高まり、ほかの妖怪とは明確に一線を画する最大の個性になっていますね!
あのお札に書かれた文字には、いったいどういう意味があるのでしょうか?
キョンシーの額にあるお札は、キョンシーの動きをコントロールするために使用される呪符です。お札には、道士による呪文や命を制御する霊力が込められており、書かれている文字によってさまざまな効果を発揮します。
このお札を貼ることで、キョンシーの動きを封じたり、操ったりすることができるのです。
映画によく登場するお札に書かれた文字を、いくつか紹介しましょう。
『勅令大将軍到此』
よくキョンシーの動きを封じるために貼られます。「天の神の命令により、大将軍がやって来る」といった意味で、お札を貼られたキョンシーは「大将軍が来るまでじっとしていろ!」と命令されていることになります。
『急急如律令』
「律令のごとく急ぎ実行せよ」という意味で、漢の時代には公文書で使用されていたフレーズです。悪霊退散の呪文や護符にこの言葉を加えると効果が高まるとされ、日本の陰陽師もよく唱えます。「今すぐ言われたとおりにしろ!」といったニュアンスでしょうか。
『勅令陏身保命』
映画本編の出番はあまりないですが、ポスターに使用されて有名になったお札です。「天の神の命令により生命を与えるから、付き従え」といった意味です。キョンシーに言うことを聞かせる命令として。ぴったりですね!
キョンシーの額に貼られたお札の起源は、道教で使われる「符籙(ふろく)」という護符です。
それにしても、文字が書かれているにしては特徴的なデザインですよね。なんだかうねうねしたり長く伸びたりしている、ひものようなもの(?)が描かれています。
これは、ただの飾りではありません。道教では、文字や模様の形は重要な意味を持つとされます。
うねうねした線は「梱仙縄(こんせんじょう)」という捕縛するための呪宝を表したもの。
長く伸びた部分は「天柱」「地柱」といい、天地をつなぐ神話の柱の象徴です。天地の霊力によって護符を強める効果があるとされます。
お札は、色が黄色いのも印象的ですね。この色にも重要な意味があるのです。
中国では黄色は皇帝の色とされ、秦の始皇帝から清王朝に至るまで、歴代の皇帝は黄色い服を纏いました。さらに遡ると、秦の直前の戦国時代に成立したとされる「陰陽五行説」において、黄色は万物の中心を表す特別な色と考えられたのです。
権威や神聖さを象徴する黄色は、霊力を込めるお札としても最適なのです。
キョンシーはお札の霊力によって制御されています。本来、人間を襲う性質があるキョンシーのお札をはがせば、制御が失われ、狂暴化して非常に危険です。
もしお札が貼られたキョンシーを見かけたら、絶対にはがしてはいけません!
ここでは、キョンシーになるメカニズムと、出会った場合の対処方法を解説します。ここにも、中国の独特な思想が秘められているのです。
あまり多くはないかもしれませんが、キョンシーになる方法に興味がある方にむけて、とっておきの方法を紹介します!
まず、基本的なキョンシーの仕組みは、道教の「魂魄(こんぱく)」という思想に基づいています。人間には精神を支える「魂」と、肉体を支える「魄」の2つの気があり、死後、魂は天へ、魄は地へ戻るのです。
古くから中国では、魄だけが残った遺体が夜中に動き出すとされてきました。もうおわかりですね。この状態こそが、キョンシーです。
では、どうすれば魄だけを残すことができるのでしょう?
怨念が強いほど魄が残りやすく、またキョンシーとしてのパワーも強力になるとされます。
ストレスの多い現代では、意外と達成しやすい条件かもしれませんね。キョンシーになる前に、別のアンデッドとして化けて出てしまうかもしれませんが…。
埋葬される日時や場所、向きなど、風水的に悪条件が重なると、魄が残りやすいとされます。
キョンシーになりたい場合は、こういった条件に加えて、遺体が腐敗しにくい環境を選んで埋葬してもらえば、さらに効果的です。100年ほど経てば、キョンシーになれるでしょう。
湖西の道士が編み出した「趕屍」も、身体から魂を抜き、魄だけを残す術です。
生前に道士に頼んでおき、死後に赶屍を施してもらえばキョンシーになれるでしょう。ただし、遺体が新鮮なうちに術を受ける必要があります。
手っ取り早くキョンシーになりたければ、キョンシーに咬んでもらいましょう。この場合も、咬まれることで魂が抜け、魄だけが残るためにキョンシー化するようです。
もしキョンシーに襲われそうになったら、どうすれば助かるでしょうか?一般の方に向けた、いくつかの対処方法をご紹介します。
まず、キョンシーは息の臭いで人間を察知するので、息を止めて察知されないようにしましょう。咬まれてしまった場合は、傷口にゆで卵や生のもち米を当てると効果的です。また、キョンシーは八卦鏡には近づけないので、持っている場合は迷わず使いましょう。火もキョンシーに有効なので、灰になるまで焼いて消滅させるとよいでしょう。
キョンシーとお札に込められた深淵な世界、いかがでしたか?
中国の民間信仰から道教、さらには神話まで、これほど壮大な世界観が秘められていたとは、意外でしたね!中国の民間信仰や装飾には、想像以上に深くて魅力的な歴史が込められています。探求してみると面白いですよ♪
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キョンシーはなぜ額にお札を付けているのか、あのお札には何が書かれているのか、取るとどうなるのか──そんな疑問を持ったことはありませんか?
実は、キョンシーとそのお札には、中国の神話にまで遡る歴史と思想が詰まっているのです。キョンシーやお札の起源、込められた思想や原理、キョンシーになる方法まで徹底して紹介しましょう!
きっと、想像を超える壮大な世界観に圧倒されますよ♪
目次
キョンシーとは?
額にお札を貼られてぴょんぴょん跳ねる姿で映画やドラマに登場し、一度見たら忘れられない中国妖怪、「キョンシー」。ゾンビや吸血鬼、幽霊といったホラー界の個性派スター達がしのぎを削るアンデッド業界(?)でも、キョンシーの存在感は群を抜いています。
恐ろしくもどこかコミカルな要素もあるキョンシーとは、どんな存在なのでしょうか?
キョンシーの起源
キョンシーとは、古くから中国で語り継がれてきた妖怪で、中国語では「僵尸(ジャンシー)」、日本の漢字では「殭屍(きょうし)」と書きます。
僵尸とは、道教の書物『大千録』に登場する言葉で、僵は「硬直した」、尸は「死体」という意味。つまり、死後硬直した死体が動く、いわゆるアンデッドなのです。
中国でいつからキョンシーが語られ始めたのかについては諸説あります。特に有名な説を紹介しましょう!
キョンシーの起源とされる奇妙な逸話が、湖南省にある湘西周辺で伝わっています。
明から清の時代にかけて、湘西は戦乱が続きました。山が多いこの地域では、多くの遺体を故郷に送り届けるのはとても困難。そのため、道士が「趕屍(ガンシー、かんし)」という術で遺体を動かして運んだといいます。
これがキョンシーの原型になった、とする説が有力です。もう一つの有力説ははるかに古い時代まで遡り、その起源はなんと、中国の神話!
伝説の皇帝「黄帝」が「蚩尤(しゆう)」という神と戦った際に活躍したのが、黄帝の娘の「妭(ばつ)」です。妭は強大な熱の力を司る美しい女神で、蚩尤配下の神「雨師」や「風伯」の風雨を退け、黄帝を助けました。
しかし力を使い果たした妭は天に戻れなくなり、周囲に日照りをもたらす存在になってしまったのです。黄帝は妭を係昆山に幽閉し、彼女は日照りを意味する「魃(ばつ)」と呼ばれるようになりました。
こうして魃は、最初のキョンシーとなってしまったのです。なんともやるせない話ですが…。
この話にはいくつかのバージョンがあり、妭がキョンシーになったのは蚩尤の呪いだとする話や、蚩尤が兵士の遺体を動かして運ぶ方法を研究させた、などの話もあります。
神話が起源だとすると、キョンシーは黎明期から中国文明とともにあった存在といえるでしょう。
キョンシーの特徴
キョンシーは非常に個性的ですよね。どんな特徴があるか、詳しくみてみましょう!
<現代のキョンシーのイメージ>
映画やドラマに登場するキョンシーは、多くの場合、以下のように描かれます。
なんだかたくさん特徴がありますね!
このうち服装については、清の時代、死者に官僚の服を着せた風習が反映されています。死後の栄達を願って、特権階級である官僚の服を着せたのです。
ここで紹介したキョンシーのイメージは、近年の映画やドラマによって一気に定着しました。しかし、このような特徴の多くは、中国の古典でも見られるのです。
<古典に描かれたキョンシー>
明から清代にかけて書かれた多くの文学作品に、キョンシーが登場します。例えば、『西遊記』に登場する妖怪「白骨夫人」も、キョンシーと考えられます。
18世紀に書かれた2つの怪異小説『子不語(しふご)』『閲微草堂筆記(えつびそうどうひっき)』は、特にキョンシーについての情報量が多く、後世のキョンシー像に大きく影響しました。
『子不語』にはキョンシーについて、「硬い死体が蘇る」「死体だが腐らず、髪が伸びる」「夜に動き出すが、鶏が鳴くと活動が弱まる」「火に弱い」などの描写が。『閲微草堂筆記』にも、「鏡に反射した光に弱い」といった記載があります。
映画もドラマもない時代にこれほど明確なキョンシーのイメージが出来上がっていたとは、驚きです。やはりキョンシーは実在するのでしょうか…?
実際にあったキョンシー事件
中国では近代以降も、たびたびキョンシーが出現しています。
広西キョンシー事件
1872年、ベトナム国境に近い広西チワン族自治区で怪事件が起きました。
山奥の村で阿牛という男がキョンシー化し、村人20人以上が犠牲になったのです。村ごと山を焼き払ったところ、事件は収まったといいます。
一説には、この事件はイギリス人による略奪を隠蔽するためのでっちあげともされます。
成都キョンシー事件
1995年、成都郊外の青城山で清代のミイラが発見されました。しかしどういうわけか、ミイラは数日のうちに行方不明に。
その直後、成都の府南河(現在の錦江)付近で10体以上のキョンシーの目撃が相次いだのです。なかには、キョンシーがビルの3階までジャンプする場面を見たという話も。
最終的に軍が動員され、火炎放射器でキョンシーを焼き尽くしたとされます。その後、府南河からなぜか多数の焼死体が発見されたのです。
地元では、道教の聖地である青城山に眠っていた伝説のキョンシーが、ミイラ発見をきっかけに目覚めたと噂されています。
四川省キョンシー事件
2005年、四川省南充市の山中で古代の石棺が発見されました。中にはもち米が巻き付けられた遺体が入っており、額には黄色いお札が貼られ、さらに奇妙なことに、湿度が高い気候にもかかわらず腐敗していませんでした。
この発見ののち、携帯電話から妨害音が鳴る、ラジオから奇妙な声が聞こえるなどの怪現象が相次いだといいます。
この事件は、ネット時代ならではのフェイク情報が加わりながら、どんどん話に尾ひれがついていったのが実情とされます。真相はさておき、現在の中国でもキョンシーは実在すると考えられていることが表れていますね。
キョンシーはなぜ有名に?
1985年、香港でキョンシー映画『霊幻道士』が公開され、翌年には日本でも大ヒット!これを受けて台湾映画『幽幻道士』やそのテレビシリーズも制作され、キョンシーブームが巻き起こりました。
なお、香港で話される広東語では。「僵尸」の発音はガンシー。それを日本の映画配給会社がキョンシーと表記し、これが呼び名として定着したようです。
キョンシーのインパクトはあまりに強く、日本では漫画やゲームなどで、数々の中国キャラがキョンシーとして描かれるようになりました。いまや日本では、恐ろしい妖怪というよりも愛されキャラとして認知されつつあります。
キョンシーは、中国文化を代表する存在になったといえるでしょう。
お札の意味と効果
キョンシーの額に貼られているお札。あのお札があることで一気に中国っぽさが高まり、ほかの妖怪とは明確に一線を画する最大の個性になっていますね!
あのお札に書かれた文字には、いったいどういう意味があるのでしょうか?
お札の基本的な役割
キョンシーの額にあるお札は、キョンシーの動きをコントロールするために使用される呪符です。お札には、道士による呪文や命を制御する霊力が込められており、書かれている文字によってさまざまな効果を発揮します。
このお札を貼ることで、キョンシーの動きを封じたり、操ったりすることができるのです。
お札に書かれる文字の意味
映画によく登場するお札に書かれた文字を、いくつか紹介しましょう。
『勅令大将軍到此』
よくキョンシーの動きを封じるために貼られます。「天の神の命令により、大将軍がやって来る」といった意味で、お札を貼られたキョンシーは「大将軍が来るまでじっとしていろ!」と命令されていることになります。
『急急如律令』
「律令のごとく急ぎ実行せよ」という意味で、漢の時代には公文書で使用されていたフレーズです。悪霊退散の呪文や護符にこの言葉を加えると効果が高まるとされ、日本の陰陽師もよく唱えます。「今すぐ言われたとおりにしろ!」といったニュアンスでしょうか。
『勅令陏身保命』
映画本編の出番はあまりないですが、ポスターに使用されて有名になったお札です。「天の神の命令により生命を与えるから、付き従え」といった意味です。キョンシーに言うことを聞かせる命令として。ぴったりですね!
お札の起源とデザイン
キョンシーの額に貼られたお札の起源は、道教で使われる「符籙(ふろく)」という護符です。
それにしても、文字が書かれているにしては特徴的なデザインですよね。なんだかうねうねしたり長く伸びたりしている、ひものようなもの(?)が描かれています。
これは、ただの飾りではありません。道教では、文字や模様の形は重要な意味を持つとされます。
うねうねした線は「梱仙縄(こんせんじょう)」という捕縛するための呪宝を表したもの。
長く伸びた部分は「天柱」「地柱」といい、天地をつなぐ神話の柱の象徴です。天地の霊力によって護符を強める効果があるとされます。
お札が黄色い理由
お札は、色が黄色いのも印象的ですね。この色にも重要な意味があるのです。
中国では黄色は皇帝の色とされ、秦の始皇帝から清王朝に至るまで、歴代の皇帝は黄色い服を纏いました。さらに遡ると、秦の直前の戦国時代に成立したとされる「陰陽五行説」において、黄色は万物の中心を表す特別な色と考えられたのです。
権威や神聖さを象徴する黄色は、霊力を込めるお札としても最適なのです。
お札をはがすとどうなる?
キョンシーはお札の霊力によって制御されています。本来、人間を襲う性質があるキョンシーのお札をはがせば、制御が失われ、狂暴化して非常に危険です。
もしお札が貼られたキョンシーを見かけたら、絶対にはがしてはいけません!
キョンシーになる原因と退治法
ここでは、キョンシーになるメカニズムと、出会った場合の対処方法を解説します。ここにも、中国の独特な思想が秘められているのです。
キョンシーになる原因
あまり多くはないかもしれませんが、キョンシーになる方法に興味がある方にむけて、とっておきの方法を紹介します!
キョンシーの原理
まず、基本的なキョンシーの仕組みは、道教の「魂魄(こんぱく)」という思想に基づいています。人間には精神を支える「魂」と、肉体を支える「魄」の2つの気があり、死後、魂は天へ、魄は地へ戻るのです。
古くから中国では、魄だけが残った遺体が夜中に動き出すとされてきました。もうおわかりですね。この状態こそが、キョンシーです。
では、どうすれば魄だけを残すことができるのでしょう?
強い怨念を残して命を落とす
怨念が強いほど魄が残りやすく、またキョンシーとしてのパワーも強力になるとされます。
ストレスの多い現代では、意外と達成しやすい条件かもしれませんね。キョンシーになる前に、別のアンデッドとして化けて出てしまうかもしれませんが…。
風水の悪条件がそろった状況で埋葬される
埋葬される日時や場所、向きなど、風水的に悪条件が重なると、魄が残りやすいとされます。
キョンシーになりたい場合は、こういった条件に加えて、遺体が腐敗しにくい環境を選んで埋葬してもらえば、さらに効果的です。100年ほど経てば、キョンシーになれるでしょう。
赶屍術を施される
湖西の道士が編み出した「趕屍」も、身体から魂を抜き、魄だけを残す術です。
生前に道士に頼んでおき、死後に赶屍を施してもらえばキョンシーになれるでしょう。ただし、遺体が新鮮なうちに術を受ける必要があります。
キョンシーに咬まれる
手っ取り早くキョンシーになりたければ、キョンシーに咬んでもらいましょう。この場合も、咬まれることで魂が抜け、魄だけが残るためにキョンシー化するようです。
キョンシーの弱点と退治法
もしキョンシーに襲われそうになったら、どうすれば助かるでしょうか?
一般の方に向けた、いくつかの対処方法をご紹介します。
まず、キョンシーは息の臭いで人間を察知するので、息を止めて察知されないようにしましょう。咬まれてしまった場合は、傷口にゆで卵や生のもち米を当てると効果的です。また、キョンシーは八卦鏡には近づけないので、持っている場合は迷わず使いましょう。
火もキョンシーに有効なので、灰になるまで焼いて消滅させるとよいでしょう。
お札が表しているものは中国の文化
キョンシーとお札に込められた深淵な世界、いかがでしたか?
中国の民間信仰から道教、さらには神話まで、これほど壮大な世界観が秘められていたとは、意外でしたね!
中国の民間信仰や装飾には、想像以上に深くて魅力的な歴史が込められています。探求してみると面白いですよ♪
関連記事
日本三大妖怪を知って、その世界に親しもう▼
世にも恐ろしい「百鬼夜行」とは?▼