掲載日:2025.07.24

チェコの伝統を現代に伝える色彩豊かな民族衣装「クロイ」とは?

皆さんはチェコの民族衣装「クロイ(kroj)」をご存知でしょうか。
チェコの伝統的な刺繍やレースで彩られた民族衣装「クロイ」は、地域によって特徴が違っていて様々な種類のものがあります。
そこで今回は、チェコの民族衣装の特徴やどんなシーンで着ているのかなどについて詳しく解説していきましょう。

チェコってどんな国?

チェコってどんな国?

チェコは、ヨーロッパの中央にある国で、正式名称を「チェコ共和国」と言います。
日本と同じように四季があり、自然と歴史的建造物が融合した美しい国チェコには、どんな歴史や文化があるのでしょうか。

チェコの歴史

チェコの歴史

チェコはドイツオーストリアポーランドスロバキアに囲まれた九州ほどの大きさの内陸国で、東部のモラビア地方西部のボヘミア地方から成ります。

かつては隣接するスロバキアと合併した「チェコスロバキア共和国」という国でした。
チェコスロバキアは第二次世界大戦中から戦後にかけてナチスドイツやソ連に支配されたことで共産主義国家となっていましたが、1989年に社会主義体制が崩壊したことで民主化が進み、チェコスロバキアは共和国に戻りました。
その後1993年にチェコとスロバキアは平和的に分離し、チェコ共和国として独立し現在に至ります。

チェコの文化

チェコは音楽の国として有名で、「新世界より」で知られるドボルザークや「モルダウ」で知られるスメタナなどの世界的な作曲家を輩出しています。

チェコの文化

また、伝統的で繊細なチェコガラス(ボヘミアンガラス)工芸や刺繡やレースなどの手芸品、アールヌーボー様式の絵画や建築でも有名で、アールヌーボーを代表する画家ミュシャもチェコ出身です。

チェコの文化

ボヘミア地方にある首都プラハにはプラハ城や聖ヴィート大聖堂など11世紀~18世紀に建造された美しい建造物が多く残っていて、「プラハ歴史地区」として世界遺産に登録されています。

チェコの文化

また、パペットを用いた伝統的な人形劇が老若男女問わず人気で、ユネスコの無形文化財にも登録されています。

チェコの民族衣装「クロイ」とは?

チェコはには「クロイ(kroj)」と呼ばれる刺繡とレースの国としても有名なチェコらしい伝統的な民族衣装があります。
日本ではあまり馴染みのない「クロイ」について、詳しく解説していきましょう。

チェコの民族衣装の特徴

チェコの民族衣装の特徴

チェコの民族衣装「クロイ(kroj)」は、男女とも刺繡と白いレースがたっぷりと使われているのが特徴の華やかな衣装です。

地域や集落によってデザインが異なるのも特徴の1つですが、女性は大きな折り返し衿白く袖が膨らんだブラウスベスト何枚も重ねたペチコートスカート、足元はブーツかストラップシューズ、頭にはスカーフを付けるのが基本スタイルです。
男性は鍔広の帽子白いシャツベストジャケット刺繍の入ったズボン靴下ブーツが基本的なスタイルです。
襟や袖口には、チェコの伝統的な「アイレット」と呼ばれる生地に小さな穴を開けてその周囲を糸でかがる技法のレースや刺繍、「ボビンレース」と呼ばれる繊細で豪華なレースで装飾されているのも基本的な特徴の1つです。

チェコの民族衣装の起源と背景

チェコの民族衣装の起源と背景

チェコはかつて、マリアテレジアやマリーアントワネットの家系であるハプスブルク家に支配されていました。
そのため現代も残るチェコの民族衣装は、ハプスブルク家の宮廷で着られていた衣服の華麗な装飾から大きな影響を受けているといわれています。

チェコの民族衣装は、襟元や袖口、スカートなどに施されている刺繍が特徴的ですが、この刺繡にはもともと魔除けの意味がありました。
大昔のチェコ人は、襟元や袖口などの衣服の開口部から悪霊が忍び込むと信じていました。
そのため、開口部に悪霊を遠ざける力があると言われていた蔓草(つるくさ)や花など「生命」を持ったもののデザインの刺繡やレースを施したのだといわれています。

地域別のチェコの民族衣装の特徴

チェコの民族衣装は、地域によってデザインが異なります。
細かい部分は地域や集落よって違いがありますが、大きく分けるとボヘミア地方モラビア地方の2つのタイプに分かれます。
ここでは、ボヘミア地方とモラビア地方それぞれの地域の特徴について紹介していきましょう。

ボヘミア地方のチェコの民族衣装

チェコの西部・ボヘミア地方の民族衣装は、昔の伝統的なスタイルが残っているデザインのものが多い地域です。
ここでは、代表的な地域の伝統衣装を紹介していきましょう。

西ボヘミア地方の民族衣装

西ボヘミア地方は、チェコの中でも古いスタイルが現代にも残っているのが特徴です。

女性は、胸高の脛(すね)半ばまでを覆う長いウールのスカートを履き、ゆったりとした長い袖と折り返しのある衿が付いた白い亜麻(あま)のブラウスの上に短い丈のベストを着用し、房飾りのついた赤いショールを羽織ります。
胸元は無地の赤いリボンを結び、頭にはスカーフを頭巾のように巻きます。

男性は、襟元にレースを付けた白いシャツに紺色のベストを重ね、膝丈で細身のウールのズボンに膝丈の靴下、ブーツといったスタイルで、小枝を付けた鍔広の帽子をかぶります。
寒い日には白か青のコートを着て、小枝を差した黒い幅広の帽子を被ります。

南ボヘミア地方の民族衣装

ボヘミア地方の中でも裕福な町が多く、都会の流行を取り入れたデザインの民族衣装が多い地域です。

女性は、ベルトのついた膝下丈のウールのスカートに華やかな刺繍をあしらった長いエプロンを重ね、豪華な刺繍を施した丈の短いブラウスに腰の上までの長さのコルセットタイプの「ボディス」と呼ばれる女性用上着と「シュペンスル」と呼ばれる丈の短い上着を重ねて着るのが特徴です。

男性は、豪華に刺繡をあしらったシャツに、真鍮(しんちゅう)のボタンが付いた喉元まで覆う青の長いベストと長い上着を重ねるのが特徴です。

中部ボヘミア地方の民族衣装

チェコの中でもいち早く民族衣装を着なくなったため、スタンダードな民族衣装しか残っていない地域です。
特別な特徴はありませんが、祭礼時には袖が大きく膨らんだシルクのブラウスやビロードのスカート、金糸で刺繍をしたボディスや帽子など、豪華な民族衣装を着ます。

モラビア地方のチェコの民族衣装

モラビア地方の民族衣装

チェコの東部・モラビア地方の民族衣装は、華やかで豪華なスタイルが多い地域です。
モラビア地方にはこの他にも数多くの民族衣装が残っていて、年齢や身分、行事などで使い分ける村もありますが、今回は代表的な2つの地域の民族衣装について紹介していきましょう。

ハナ-地方の民族衣装

ハナ-地方の民族衣装は、とても華やかで有名です。

女性は、袖口をリボンでくくってある丸く膨らんだ袖のブラウスに豪華な刺繍を施した絹のベスト、足首まで丈のあるたっぷりとしたスカートと、腰にはカラフルで綿密な花の刺繍を施した長いリボンのようなベルトを巻きます。
スカートの裾は繊細なアイレット技法のレースが施され、襟元も花の刺繡や大きく何枚も重ねられたレースで飾られています。
髪は大きなスカーフで覆い、寒い季節は黒の上着を着ます。

男性は、たっぷりとした長袖をカフスボタンで留め、細かい刺繍を施されたシャツの襟周りをリボンで飾ってあります。
シャツの上には豪華な刺繍が施された深緑色の衣のベストを着用し、ボトムは膝丈のカラシ色かレンガ色のゆったりとした毛皮のズボンに黒のブーツを履きます。
ズボンの前部分はボタンで留めてあり、トイレの際には片手で開けられるようになっています。
頭には、鍔広の帽子または東欧風の丸い帽子をかぶり、寒い日には毛皮のコートを着ます。

南モラビア地方の民族衣装

南モラビア地方の民族衣装

南モラビア地方はかつて鉱山で栄えモラビア地方の中心であった地域で、現在は豊かな小麦畑が広がっています。
この地方は、刺繍が細かく美しいキヨフという町パステルカラーの色合いで有名なポトルジー村など多くの種類の民族衣装があるのが特徴です。

女性は、風船のような袖に大きな折り返しのある襟とブラウスに足首までの長いスカートが基本スタイルですが、ポトルジー村の民族衣装は、ペチコートで広がったパステルカラーの膝丈スカートにアイレットレースで出来たエプロンを重ねて着ます。
足元は膝丈の黒いブーツを履き、頭は17世紀後半から18世紀にヨーロッパで流行した「フォンタンジュ」と呼ばれる幅広のレースのリボンを蛇腹に畳んだ髪飾りのようなパステルカラーの髪飾りを付けるのが特徴です。

男性は、たっぷりとした袖とカラフルな花の刺繍を凝らしてある白いシャツに、絹の編み上げ式ベスト、黒いレースで飾った赤いズボンや羽飾りのついた小さな黒い帽子を着用します。

チェコの民族衣装の現代での着用シーン

かつては日常的に着られていた民族衣装ですが、現代はお祭り結婚式キリスト教の行事イースターなどの伝統行事や、フォークダンスやポルカなどの伝統舞踊を行う時など限られたシーンでのみ着用されています。
ここでは、民族衣装が見られるチェコの有名な行事について紹介していきましょう。

モラビア地方「王様騎行(イーズダ・クラールー)」

モラビア地方「王様騎行(イーズダ・クラールー)」

南モラビア地方のヴルチュノフ村では、毎年5月の最終日曜日に「王様騎行」と呼ばれるお祭りが開催されています。
「王様騎行」とは、昔、タタール人に襲撃されたとある国の幼い王様が、追っ手の目を欺いて逃げ切るために女の子の格好をし、側近たちとともに馬に乗ってチェコに逃亡したという伝説が由来となっているパレードです。
そのため「王様騎行」では伝説に合わせて、王様役の10歳くらいの男の子が女の子の民族衣装を身に付けて綺麗に装飾された馬に乗ってパレードの先頭に立ち、王様の後には側近役の民族衣装を着た18歳の青年たちが馬や徒歩でついていくという形で村中をパレードします。

「王様騎行」はヴルチュノフ村で200年以上続いている伝統行事で、2011年からユネスコ無形文化遺産に登録されています。
また、「王様騎行」はヴルチュノフ村独自の成人式にもなっていて、この年に18歳となる男女は民族衣装を身に付けて教会で祝いの儀式を行います。

キヨフのフォークロア・フェスティバル「スロヴァツキー・ロク」

キヨフのフォークロア・フェスティバル「スロヴァツキー・ロク」

南モラビアのキヨフでは、4年に1度8月の10~13日にチェコ最大のフォークロア・フェスティバル「スロヴァツキー・ロク」が開催されます。
「フォークロア」とは「民間伝承」や「民族」を意味する言葉で、フェスティバルでは周辺地域の町や村から多くの人が集まり、伝統音楽のコンサートや伝統舞踊を披露し、それぞれの地域の特産品を販売するマーケットが並びます。

中でも注目を集めるのは、キヨフ周辺の40以上の町や村がそれぞれの地域の民族衣装を着てグループごとに歩く民族衣装のパレードです。
2時間ほどの長いパレードですが、色とりどりの民族衣装が見られるので人気となっています。

多種多様なチェコの民族衣装

チェコの民族衣装は、刺繍やレースがふんだんに施されカラフルで可愛いのが特徴です。
モラビア地方とボヘミア地方といった東西の違いだけでなく、それぞれの村ごとにもデザインの違いがあり、民族衣装を見ただけでどこの村出身なのか分かるのだそうです。
また、同じ村でも年齢などによって違いがあり、とくに女性はデザインや色遣いで既婚か未婚かを区別している地域もあるのだとか。
多種多様なチェコの民族衣装を直接見てみたい方は、ぜひチェコに足を運んでみてください!


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