空き家を買い漁る横浜の人

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地方創生 鯨の町おこし

呼子くんちの山車の打ち合わせで何度も呼子に来訪していた。
呼子には江戸時代からの古い町並みが残っている。
山車を保管してくれている鯨組主の中尾家屋敷は代表的な建物であるが、昭和初期までの建築を含めると150軒ほど残っており、海と丘に挟まれて一本の通りを形成している。

呼子八幡神社の八幡さんが町並みの保存活動を続けていらして、港町呼子まちなみ保存協議会を担い、からつヘリテージ機構と連携して、伝統建築保存地区の認定に向けて活動していると聞いた。

多くの古民家が補修が必要なのだが、費用がないことや倒壊リスクがあったりするので、建物がどんどん壊されていっている。空き家が増えていく先には、呼子に住んでいない親戚オーナーが壊す判断をしていく。
しかし、伝統建築保存地区に認定されれば、建物の補修の大半に国の補助金が出るため、古民家の補修、継続活用が促され、古くからの町並みが保全されやすくなるわけだ。

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現在、市が軸となり認定に向けて調査が進行しているが、急いで欲しい。町が伝統建築保存地区への申請を市に提案してから10年経っている。その間に200 軒あった古民家が150軒まで減ってしまったわけで、1年1年が正念場なのだ。

町を歩いているとやはり空き家が多いことに気づく。20年で7000人の人口が5000人を切ったわけだから、必然でもある。
大きな疑念が頭に浮かんだ。父の遺志を継いで山車を奉納し、祭りが始まったとしても、10年後20年後、過疎がさらに進めば山車を引く人もいなくなってしまうのではないか?
ふと、山車が誰にも曳かれることもなく、寒風が吹き付ける人の気配のない町に、ただ保管されている未来が頭をよぎった。

この状況を見ぬふりをして、山車を奉納して去る。
それは簡単。誰にでも出来る。そして非難される言われもない。

「やれることをやろう」
でも、自分ごときに何ができるか。
どこまでできるか。
意味がないかもしれない。
失敗したら損するし、笑われる。

呼子に来るたびに自問自答を繰り返した。
でも最後にたどりつくのはいつも、
「やれることをやる」「やると決めたら、やり切る」

人は悩んだり迷ったりすると「何もやらない」に着地しやすいが、その先にあるのは人生の虚無。虚無を吹き飛ばすのは行動あるのみ。
生きてる以上、生きながら生きたいのであり、死にながら生きるのはまっぴら。たくさんの失敗を経て常々感じてきたことだし、父がいつも示してくれた道でもある。

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呼子に築100年の古民家を使ったカフェ付の宿「百と十」がある。
力強い梁が重厚に横たわる古建築がリノベーションされたセンスの光る素敵な宿で、カフェは海に面している。そのカフェで太陽の光が反射して輝く海を見ながら珈琲を飲む。

こんな感じで空き家のリノベーションが進んでいけば最高だな、と思った。町の観光産業にも寄与するし、呼子で何かをやろう、と思う若い人も増え人口減少対策にも寄与するだろう。
特に古民家を活用し古い町並みを残すことは、町の歴史という個性を残すことであり、観光地としての差別化と固有の魅力に繋がるのだ。

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町の空き家状況を不動産の方に聞いてみたら、いくつか空き家のオーナーさんが売る意思を示していた。ところが「売れなかったら壊す」ということだったり、伝統建築保存地区への動きを知って反社が申し込んできた、など危なっかしい情報を耳にした。(反社はのちのちの町並み本格保全の動きの中で騒ぎ立て高く売り払う、ということがあるらしい。)

そういうこともあり、朝市通りの4軒の古民家をまず買っておいた。
古民家を活用して何をやるかは、買ってから考える、という乱暴さだったが、前述した状況もあったし、自分を追い込みたい、という気持ちもどこかにあった。

余談だが、呼子くんちの会合の際に町の有力者複数から、「横浜の人が古民家を買い漁っているらしい。とても怪しい。進藤さん、その人が誰だか、何か知ってないか?」と聞かれてしまった。
「それ、私です。心配させてすみません。まだ何をやるかは決めてませんが、町のためになる事業を考えます。」と答えたが、互いに「えっ」とポカーンとした空気になったのを覚えている。

朝市通りにしぼったのには理由がある。
呼子の観光の目玉は、日本三大朝市である呼子朝市とイカ活き造りだ。
その朝市も長期的には観光客減や売手の高齢化が進み、世代交代や活性化が必要とされている。

一つの観光地で知名度のあるコンテンツを新たに生み出すのは至難の業であるので、まずは既存コンテンツを大事に優先度を上げて活性化するべきであろう。その朝市の通りに空き家が多くなれば、来訪者のイメージも良くない。
まず朝市通りの空き家を減らそう。そしてその空き家で面白いことが仕掛けられていけば、まだまだ多くの観光客が訪れる朝市である。目に触れやすく、話題性も出やすいだろう。

思い切って仕掛けて行くことで、観光客だけでなく、「呼子で自分も何かやってみたい」という若い人が増えるといい。私のやれることは微々たるものなので、その波及効果こそ生み出さねばならない。
そして何としてもそれぞれの事業を黒字化したい。そうでないと継続不能なのはもちろんのことだが、さらに日本中の地方で衰退の波に苦しんでいる、これからの町を担う方々に、資本投下する勇気を持ってもらいたいのだ。

まず古民家活用の第一弾として、クラフトビールのブルワリーが立ち上がる予定だ。
次号でその経緯を語りたいと思う。

次号:クラフトビールのブルワリーを古民家で。

古民家ブルワリーOPENプロジェクト
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筆者プロフィール:進藤さわと

アミナコレクション創業者 進藤幸彦の次男坊。2010年に社長に就任。
1975年生まれ。自然と歴史と文化、それを巡る旅が好き。


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