マラリアに感染?! アフリカで蚊に襲われた夜

ジブチは暑い国です。暑くて暑くて暑すぎて、日中は蚊が飛ぶこともありません。でもジブチはやっぱりアフリカ大陸の一部。夜、陽が落ちればどこからともなく「蚊」がやってきます。
蚊なんて別に平気?刺されにくい体質?いえいえアフリカの蚊をあなどってはいけません。ジブチの蚊は、日本のそれとはレベルが違います。

そして忘れてはならないのが、蚊はマラリアを媒介するという事実。マラリアは今この時代においてなお年間200万人以上の死者を出す怖い病気です(悲しいことに死者の多くは5才以下の子どもです)。
もし感染したら最悪の場合、私たちだって命を落としてしまいます。日本人には関係ない話?そんなことありません。日本人旅行者がマラリアに感染して亡くなってしまう事例も結構あるんです。

今回は、アフリカ・ジブチ共和国で経験した蚊とマラリアの恐怖のお話です。

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日本の殺虫剤は効果なし?

ジブチは小さな国です。観光地もあまりありません。でも数少ない観光地は素晴らしく、自分の目を疑いたくなるほど強烈な景色が広がっています。

その一つ映画「猿の惑星」の撮影地にもなった場所へ行く途中のことでした。世界の果てと呼ばれるほど何もないその地へ行くには、人の気配がない道を車で何時間も走らなければなりません。ガイドさんがしつこく聞いてきます。

「蚊よけスプレー持っている?」
「蚊を殺すスプレーは?」
「蚊に刺されたあとの薬は?」

旅行中、私が宿泊するのは主に安宿です。そういう宿は衛生的にちょっと…という箇所が多く、ベッドや毛布には南京虫やダニがいたりします。そのため害虫対策も兼ねて、小さな殺虫剤は持ち歩いていました。そう答えると。
ガイドさんは「日本のでしょ?効果ないよ」とピシャリ。

「でも、蚊は蚊でしょ」と余り真剣にとりあわない私の性格を知ってか知らずか、ガイドさんは私を繰り返し諭します。そして、ほぼ強制的にドラッグストアへと連れて行きました。

「ジプチの殺虫剤か。なかなか珍しいし記念になるかも」なんてのんきな気分で購入したのは、真っ白な缶に大きな蚊と×の絵が描かれた体に直接スプレーするタイプの蚊よけスプレー。フランス語表記でしたが、絵がとてもシンプルだったので簡単に選ぶことができました。

日本の殺虫剤は効かない

見た感じはどこにでもある(日本のと変わらなさそうな)普通の虫よけに見えます。特に、殺虫効果が強い感じもありません。

私の心の中では、「買う必要ある?手持ちので事足りるんじゃない?」と。
それでも、ガイドさんはなおも続けます

「刺された後の薬はいらないの?」
「蚊を殺す殺虫剤も買いなよ」
「蚊取り線香とかどう?僕ライター貸してあげるよ」

親切なガイドさんの言葉を半分きき、半分むしする形で、私は虫よけスプレーだけを買いました。
でも、現地の人のアドバイスには、素直に従うものでした。

大自然の中でテント泊

その夜ガイドさんに連れられてたどり着いたのは、観光客用の宿泊施設でした。山の上の広大な敷地にポツンと、でもけっこう立派な建物が建っています。(【注意】立派といっても、壁や屋根に穴があいていない、というレベルです)
ロッジと呼んでも良いような空間。観光客はおらず、貸し切りでした。でも住み込みで働いているであろう人やその家族・子どもが走り回ったりしていたので、寂しい感じは一切ありません。

きちんと室内で眠ることもできましたが、外にテントを張って寝ることも出来るよというので、テントをリクエストしました。

「大自然の中で眠れるなんて最高に幸せでしょ?」でも、ガイドさんもドライバーさんも、挙句近くのハンモックでうたた寝をしていた従業員らしき現地の人にまで「外なんてやめておきなよ」と。彼らはみんな室内で寝るようです。

夕方、陽が沈み切る少し前に一人用の簡易テントが用意されました。テントの中にはビーチで使うような簡易ベッドが一つ置かれています。市民プールの片隅で見るような、パイプにメッシュ素材が張られた、乗るとミシミシ音がするような簡易ベッドです。
そして毛布。それ以外は何もありません。でも充分でしたし、他に何かを欲しいとは思いませんでした。

ワクワクする私を前に
「本当にここでいいの?」
ガイドさんが尋ねてきます。

「外がいいの。綺麗な星がみたいから」

やれやれといった感じで
「蚊帳を張っておくから。あと電気がないから。夜は真っ暗になるよ、コレ使ってね」
懐中電灯一つを置いて、ガイドさんは去っていきました。

蚊帳
写真はイメージです。安宿だと、こういうマットレスに南京虫やダニがいたりします

蚊・蚊・蚊の恐怖

外は嵐と間違えるほどの強風。蚊はいません。そして、空には満天の星が輝いていました。

人工的な光はゼロ、高層建築物もゼロ。見渡す限り自然しかない世界で見上げる空は、日本のより高く広く、星の輝きもまた別格でした。吹き荒れる風は強く痛いほどでしたが、星空の美しさから目が離せず長い&長い時間、星空や静かな大地を眺めていたと思います。

「外でこのまま寝ようかな」
「さすがに危ないかな」

あまりに綺麗な星々にうっとりしていた私は、夢のような気分で野宿計画を立てていました(モロッコの安宿では屋上で寝ましたし、サハラ砂漠でもやっぱり砂の上で眠りました。すべては星があまりに綺麗だったから、です)。

突然、風が止みました。と同時に、今までどこに潜んでいたのか、蚊がやってきました。それも数匹単位ではありません。数十匹単位です。まだまだ星空を見ていたかった私は、格闘するものの四方八方から狙われ、5分もたたないうちに屋外にいられなくなります。

泣く泣くテントに避難。テントの中には親切なガイドさんのご厚意で蚊帳が張ってありましたが吹き荒れる風でめくれてしまったのか、蚊帳の中にまで蚊の大群が入ってきてしまっていました。

真っ暗な中、小さな懐中電灯の光で蚊と格闘します。巨大な蚊の羽音は恐怖をかきたてるほど大きく、刺されたら痛いんじゃないかと思わせるほど大きな針を持っていました。
手で殺すには暗すぎる&数が多すぎる。耳元でなる羽音は不気味な低音で、懐中電灯を受けて動く黒い影は不気味すぎるほどうようよ…。

狭いテントだし…と一時は躊躇した(日本から持参した)殺虫剤を吹きかけるも効果は、ほぼゼロ。自分自身が息を止めて「これでもか!」という位、大量に散布するも結果は同じでした。どうやらジブチの強い蚊には、日本の殺虫剤はきかないようです。

脳内ではガイドさんの「日本の虫よけでしょ?きかないよ」の言葉がリフレインしています。ガイドさんが親切ですすめてくれた殺虫剤、買っておけばよかったな…と。ここにきて大後悔。戦っても戦っても蚊を死滅させることはできず、むしろどんどん数が増えてきている気さえします。

この時点で1時間は格闘していたでしょうか。試しにガイドさんの薦めでドラッグストアで購入した蚊よけスプレーをベッドと自分の服に吹きかけます。すると、蚊がよってこなくなりました。嬉しい発見!

疲れ切った私は、虫よけスプレーをなりふり構わず全身と顔、首、髪、ベッドや毛布にまで吹きかけて、さらには頭から毛布をかぶり眠りました。(その日は設備がなくシャワーを浴びていませんでした。翌日もきっとシャワーは浴びれません。だって設備がないから…。虫よけスプレーは体がべたつくので何日もシャワーがない状態では極力、使いたくなかったのですが、そんな事言っていられないほど疲れ切っていました)

蚊取り線香を買えば良かった。殺虫剤を買えば良かった。頭までかぶった毛布の中で息苦しい思いをしながら、後悔ばかりしていました。

蚊を排除する様子
ガスマスクを着用しながら蚊を徹底的に排除する地域も

もしマラリアに感染していたら…

翌朝、いつの間にか蚊は消えていました。そして大量の蚊よけスプレーのおかげか顔も首も無事です。でも、足のある部分だけが、大量に蚊に刺されていました。
そこはスプレーをし忘れた箇所。蚊は一極集中してそこを狙ったのでしょう。私の肌は、ボコボコと大小さまざまな膨らみで埋め尽くされていました。まるで蕁麻疹。よく見ると巨大な蚊の針の痕までくっきり残っています。

「なんて強力な虫よけスプレー」

もしガイドさんが薦めてくれた蚊よけスプレーを購入していなかったら、全身を刺され続けていたでしょう。刺される数が多いほど、マラリアの感染率は高くなります。

考えてみます、もしマラリアに感染していたら…。
マラリアの症状は発熱が一つのサインといいます。発熱した時点で病院へ行ければ大丈夫でしょうか。でも出産は高温の温泉で、病気になったら塩のお風呂で治療するほど、病院の敷居が高い国で、旅行者を見てくれる病院など見つかるのでしょうか。

もし運よく病院があったとしても、ここは食べるものが何もないレストランが開いている国です。病院に薬が置いてあるとは限りません。ましてや、私が今いる地はジブチの最果て。街へ戻るためには、まる一日車を走らせなければなりません。

嘔吐や下痢が続くのもマラリアの特徴です。そんな状態で私は車に乗っていられるのか。アスファルトどころか道もない、ガタガタ揺れるばかりの車に乗っても大丈夫なのか…。

考えれば考えるほど、マラリアに罹患してしまった私の未来に光はありませんでした。病院がダメだった場合は、御祈祷?薬草?民間療法?
アフリカにもシャーマンはいます。昔見たドキュメンタリー映画では、シャーマンが治療と称して病気の子どもの頭から血を吸っていました。私も血を吸われるのかしら…。

考えるだけ考えて、ガイドさんに正直に告白しました。
夜、大量の蚊に襲われたこと。日本の虫よけはきかなかったこと。現地の虫よけを買って大正解だったこと、それでも刺されてしまったこと…。それも大量に。

刺されすぎてボコボコになってしまった私の足を見てガイドさんは言いました。
「水で洗いなさい。もし蚊の針が残っていたら抜きなさい。それだけ刺されていると、熱をもっているでしょ。今からでも毒を流しなさい。冷やしなさい」

そして、一口にマラリアといっても何種類もあること。マラリアの種類によって潜伏期間が違うことを教えてくれました。アフリカ旅行の最中にマラリアに感染したのに、次の旅行先まで潜伏が続き、全く違う国(ヨーロッパなど)で発症する場合もあるそうです(この場合、お医者さんはマラリアと分かるのでしょうか?胃腸炎と診断されそうな…)。

アフリカの子供たちを診療する様子

人の親切には耳を傾けよう

反省してガイドさんの話を真剣に聞く私。視線をあげるとすぐ近くに、ハンモックに揺られて眠るほぼ裸の少年がいました。「あれ?彼は蚊、大丈夫なの?」

今は朝だけど、まだ寒いから蚊はいるよ。そんな無防備に寝ていたら刺されるよ。私は蚊を恐れるあまり、長袖長ズボンだというのに…。彼らの黒々とした肌は、蚊の針が簡単にはいらないほど固いのでしょうか。刺されにくいホルモンでも出ているのでしょうか。

蚊に怯える私をしり目に、のんびりくつろぐ少年を見て、超えられない人種の壁を垣間見た気がしました。

そして猛烈に反省しました。親切になんども虫よけグッズの購入をすすめてくれたガイドさん。「私の肌が白いから心配しているの?かな」「田舎育ちで巨大な蚊に慣れているから大丈夫じゃない?」なんて呑気にかまえていた自分に教えてあげたい。

「現地の人の親切なアドバイスは、ちゃんと聞きなさい」。ネットや本の知識なんて、現地のそこに生きている人の情報の足元にも及ばない。そう再確認させてくれる体験でした。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

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