春を知らせる四行の詩――トルコ民俗詩「マーニ」

口上

『トザイ、トーザイ。シルクロードの最西端、
トルコのイスタンブールより参りましたトルコ春招び隊!
チャルメラ【ズルナ】吹きのアスラン・カラと、
太鼓【ダウル】打ちのムラト・カラ兄弟が
今年も中華街に春を招びにやって参りました!
踊り手レイラとアイシェも揃い、歌にあわせて軽やかにステップを舞います。

ただいまのトルコ語の四行詩「マー二」を日本語に翻訳いたします。

春が来るよ、春が
あの人の瞳が僕の心を燃やす。
心があの人をつかまえたなら
ネックレスに真珠をあげる

「マー二」とは祭りのあかつきを知らせ、
春の到来を告げるトルコの伝統的な四行詩。
また新たな季節にひろがる恋の芽生え、
愛のささやき、
人知れず終わる片思いの詩でもあります。』

中華街に春を招(よ)ぶ――2007年春

概要

花鳥節姫林檎フェアの九日間、毎日拡声器から流れる「マーニ」。姫林檎の花咲くなか、トルコ春招び隊と「シルクロード舞踏館招待・トルコ春招び隊」の看板を持ったアミナ・スタッフが南門シルクロード通り、中華街大通り、西門通りを古典「トルコ行進曲」や民謡「シリフケのヨーグルト」等を演奏しながら道行きをしました。

ズルナとダウルの音をとどろかせ、所々立ち止まっては「マーニ」を歌い、中華街の春の訪れを祝福してまわる一行。中華街大通りにひしめく人々も、一行が近づくと道の両端にささっと避けてカメラを構える光景はとても気持ちの良いものでした。
二度あった両土日には、チャイハネ パート1とアナの二階芸能ベランダで20分の街頭公演が行われ、「カスタモヌ地方の太鼓踊り」をはじめ、珍しいトルコの民俗芸能を一目見ようと、大勢の人だかりで店前は大いに賑わいました。

イスタンブールに飛ぶ紙おむつ

結婚式でそのほとんどを見ることができるといわれるトルコの民俗芸能、カラ兄弟のような音楽一家には祝福を招く場であるとともに、貴重な生計の場でもあるそうです。
カラ兄弟は中央アジアに起源を持つ遊牧民「アシレット」の出身で、兄弟はなんと20人。
一族全員あわせると101人になる大家族。アスランは11児、ムラートは6児の父親でもあります。

最終日の朝、「100円ショップ」からの大量のお土産のほか、彼らは大きなスーパーの袋四つ分もの紙おむつを買っていました。
13歳になるアスランの子供のひとりが身体が不自由で、その子の為に日本の質の良い紙おむつを買って帰るのだそうです。
我が子のことを話すアスランの顔によぎる、演奏中には見せない複雑な「父親」の表情が印象的でした。

春の到来、恋の始まり

※この四行詩マーニは、2006年~2010年に毎春来日していた「トルコ春招び隊」が歌っていたものを、日本語に訳したものです。

春が来た 春が来た
窓辺に鳥が来た
娘の心が盗まれた
私の腕にすきまが空いた
ぶどう畑に夜な夜な通った
真珠のたまが連なるように
紙も鉛筆もなくなった
貴女に手紙を書いて書きつくし
海は荒れて 湖になった
恋人よ おまえに何があった
おれはおまえに 身を焦がし
その名 故郷で知られたよ
春は緑の草なしにはいられない
白いネックレスの貴女は私なしにはいられない
すべてはひとりひとりでいられるけれど
私の腕は貴女なしにはいられない
果樹園へ行った ザクロを見に
歩いて回った 恋人探しに
母たちは娘を 育てている
若い男たちの ためにこそ
春が来るよ 春が
あの人の瞳が僕の心を燃やす
心があの人をつかまえたなら
ネックレスに真珠をあげる
泉がふたつ 並んで湧くよ
水を飲もうか ごくごくと
おれに住所を くれないか
あんたに手紙を 書くために
海の底は 深いもの
その上に絨毯を 広げておくれ
つづらも籠も いらないわ
好きな人へ わたしをやって
果樹園へ行った 縛らないで
黒い瞳の 愛しい人よ
おれはここの 者ではない
心をおれに 結ばないで
ハンカチ敷いた 石の上
この身に何が 起こったのだ
娘のほっぺに キスしたら
「長生きしてね」と 娘が言う
震えておくれ 小さな灯り
鳴っておくれよ このスプーン
進めよ列車 遠い道
恋人たちを 引き合わせよ

マーニという小さな詩

春が来たと感じる瞬間は、人それぞれだ。
風の匂いが変わったとき、道ばたの草が急に青くなったとき、あるいは朝の光がやわらかくなったとき。
トルコの人びとは、そんな春の訪れを喜び「マーニ」という四行詩を歌った。

マーニは、たった四行の短い詩だ。むずかしい言葉や大げさな表現はなく、身の周りの景色や気持ちを、そのままの形で言葉にする。
畑仕事の合間や、村の集まり、若者同士のやり取りの中で、即興で作られることも多かったという。

春をうたうマーニには、自然の姿が多く描かれる。
雪が溶け、花が咲き、鳥が歌い始める。けれど、それは単なる風景の説明ではない。
長く厳しい冬は、苦しさや不安の象徴でもある。だから「冬が去った」という言葉は、「つらい時期が終わった」という気持ちと重なる。
自然の変化を語りながら、人の心の変化もそっと伝えているのだ。

読んでいると、不思議と自分の記憶ともつながってくる。
冬の終わりに感じる、あの少し軽くなる気分。何かが始まりそうな、理由のない期待。
マーニの中の花や鳥は、遠い国の風景でありながら、どこか自分の暮らしにも重なって見える。

春のマーニには、恋の気配が漂うことも多い。
花が開く様子は、心が開くことに重ねられ、芽吹く草は、胸の奥に生まれる小さなときめきのようだ。
自然と人の感情が、同じリズムで動いているように感じられる。
たった四行の中に、春の訪れを祝い、恋の芽吹く気持ちを閉じ込めるマーニ。
長い説明はないけれど、読む人の中で風景が広がっていく。短い言葉だからこそ、春の光や空気が、まっすぐ心に届くのかもしれない。

「芸能の庭」シルクロード舞踏館について

「芸能の庭」シルクロード舞踏館について

1981年、中華街の片隅に、赤い木で縁取られ通りから中が覗けるガラス張りの舞踏館が誕生しました。
チャイハネがこころをときめかせる刺激の場所ならば、舞踏館はからだを動かし自分と向き合う意識の場所。
対であり影響しあう存在です。

街並みも暮らしぶりも行き交う人も変容していくなか、1993年に余儀なく閉館となりましたが、2001年月に旧舞踏館のあった隣で再び産声を上げました。
地下階に作られた今度の舞踏館は、ネイティブ・アメリカンの神聖な場所キヴァを模しています。
ネイティブ・アメリカンたちは屋根から出入りする半地下のキヴァの中で、そこにこもって、そして大地の懐に抱かれ、祭の歌詞を作り、歌を歌い、踊りを習い、お話を聞き、布を織り、瞑想をし、体を清めたりします。

▼シルクロード舞踏館

アクセス

  • ● みなとみらい線 元町・中華街駅(②③番出口) 徒歩約3分
  • ● JR京浜東北線・根岸線 石川町駅 徒歩約10分
  • ● お車の場合は周辺の有料駐車場をご利用ください。

▼シルクロード舞踏館について、詳細はこちら

シルクロード舞踏

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