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みなさんは、「サーミ族」という人々を知っていますか?初めて聞いたという方もいれば、名前だけは聞いたことがあるけれど、どんな人々なのかよくわからないという方まで、さまざまだと思います。
このコラムでは、そんなサーミ族について、どこに暮らし、どのような言語を話すのかといった概要から、自然と密接に結び付いた暮らしや文化をていねいにわかりやすく解説します。
世界の文化について興味を持っている方や、サーミ族について知りたいという方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてくださいね。
「サーミ族」とは、北欧(ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北部)とロシア北部のコラ半島にまたがるラップランド(北緯66度33分の北極線より北の北極圏中心)に暮らす先住民族です。トナカイとともに季節ごとに移動して生活する遊牧民で、移動の際は「コタ」と呼ばれるテント状の住居を作るのが特徴です。
サーミ族には「サーミ語」という独自の言語がありますが、スウェーデン語、フィンランド語、ロシア語などもほとんどの人が話すことができます。なお、ラップランド地域で流れているラジオでは、一日中サーミ語でニュースや音楽が流れているチャンネルもあるそうです。
サーミ族の人口は約5~10万人と推定されており、そのうちの多くがノルウェーに住んでいるそうです。サーミの人々の歴史は古く、約1万年以上前からラップランド地域に住んでいると言われており、現在EU諸国では唯一存在する先住民族でもあります。
サーミの人々は、自然と密接に結び付いた生活をしています。トナカイの飼育が生活の中心で、肉・毛皮・角・交通手段として利用しています。具体的には、トナカイの肉は食用として売り、毛皮を利用して靴やバッグを作ります。また、角は木製マグカップの持ち手やナイフのさや、アクセサリー、手工芸品などに利用されます。
ちなみにサーミ人が作る手工芸品は「ドゥオジ(Duodji)」と呼ばれています。衣服づくりや革加工、木の根を編むような柔らかい素材の工芸は女性が中心となって担う一方、トナカイの角や木を使うような硬い素材を扱う細工は男性の仕事です。木工細工には割れにくい白樺がよく用いられています(ただし、用途によっては松や柳、トウヒなど、他の木材も使い分けられます)。
サーミの木工細工には、手のひらに収まる小物から、雪原を滑るそり「アクジャ(Ackja)」のような大きなものまであります。北部サーミのドゥオジは形そのものが美しく力強いのが特徴で、対して中央や南部のサーミでは、マグカップやスプーンなどに繊細で上品な装飾を施した作品が多く見られます。
サーミ族の職人やトナカイ飼いが一堂に会する、年に一度の大規模な祭典「ヨックモック・ウィンターマーケット(Jokkmokks marknad)」。スウェーデン北部、北極圏に位置するサーミ文化と教育の中心地ヨックモックで、毎年2月、厳しい寒さのなか開催されます。
このマーケットにはスウェーデン国内はもちろん、ノルウェーやフィンランドなど周辺国からも多くのサーミ族の人々が集い、ドゥオジをはじめ、トナカイやヘラジカの肉、チーズ、ジャムなど、サーミ族ならではの食文化も並びます。期間中は音楽ライブやワークショップも開かれ、訪れる人々がサーミの暮らしと手仕事を体感できる貴重な機会となっています。
その起源は400年以上前に遡ります。もともとサーミの人々は冬になると、トナカイの餌を求めて森の多いヨックモックへ集まり、物々交換を行っていました。やがてその取引にロシアなどの貿易商人が加わり、トナカイの皮や肉を買い求めるようになります。
これを組織的な市場として整えたのが、1604年に即位したスウェーデン王カール9世でした。彼はこの地を教区として再編し、税の徴収やキリスト教への改宗を進めるなど、サーミの人々を国家の統治下に置く政策を行いました。ヨックモック・ウィンターマーケットは、もともとその一環として誕生したのです。
しかし今日では、その歴史的背景を超え、年に一度の祝祭として発展しています。今では国境を越えたサーミの交流の場であり、彼らの文化とアイデンティティを世界へ発信する象徴的なイベントとして受け継がれています。
夏は山岳地帯でトナカイを放牧し、冬になると平野部や森に移動して雪下の草や木の皮を食べさせるといった、季節ごとにトナカイの群れを移動させる遊牧生活をしています(サーミ族の住むラップランドの冬は、マイナス40度になることも)。
また、トナカイは単なる家畜ではなく「家族の一員」として敬われ、群れの行動や自然のサイクルに寄り添って生きることが、サーミ族の価値観や信仰にも深く結びついています。ヨイク(伝統音楽)にもトナカイを題材とした歌が多く、彼らの音楽や神話の中にも、常にトナカイの存在が息づいているのです。
このように日々の生活の中心であるトナカイとの共生が、サーミ族の知恵と文化の象徴といえるのです。
サーミの人々にとって大切な活動は、狩猟・漁業・採集です。狩猟はエルクやウサギといった野生動物を捕獲し、肉は食料に、皮や骨は衣服や道具に利用します。
漁業は湖や川でサケやトラウトを捕獲し、冬になると氷上の穴釣りで魚を捕まえます。採集は季節に応じてベリー、キノコ、薬草などを収穫しています。
こうした活動はサーミ族にとって重要な生計手段。同時に、ラップランドの限られた自然資源を持続的に利用する知恵の表れでもあるのです。地球温暖化が進む現在、サケの漁獲量が減少したり、トナカイが地表のコケを十分に食べられなくなったりと、厳しい状態が続いています。
そんな厳しい自然環境においても、季節ごとの知恵と技術を基盤として、家族が暮らしていけるように工夫しているのです。
また、手仕事は親から子へと技術が受け継がれ、現代でも文化保存や観光資源として重要な役割を担っています。
サーミ族には、「ヨイク」という伝統的な即興歌(またはその歌唱法)があります。ヨイクは元々、自然界の精霊とのコミュニケーションや人々の感情を表現するために生まれました。
メロディーやリズムだけでなく、特定の対象を「表現する」手段として捉えられているのが大きな特徴です。トナカイ追いや狩猟の前後に行う儀式でもヨイクが歌われることがあります。
また近年では、ヨイクの多様性も注目されています。サーミのミュージシャンのなかには、伝統を大切にしながらも、ジャズやロック、クラブ系サウンドを取り入れたり、他のヨーロッパ音楽を取り入れたりする人もいます。1994年に開催されたノルウェーのリレハンメル冬季オリンピックでヨイクが披露された際には、世界中に大きな感動を呼びました。
サーミ族の服飾文化の大きな特徴が、「コルト(Kolto)」と呼ばれる伝統衣装を着ていることです。コルトは女性が作るのが一般的で、銀を織り込んだピューター糸を用いた刺繍を施す場合もあります。
コルトは青・赤・黄色・緑などの鮮やかな配色が目を引きますが、性別や住んでいる地域によってデザインや色が異なります。たとえば、女性はワンピースまたはブラウスとスカート、男性はチュニックとズボンを合わせるのが基本。色については、赤は幸福や保護、青は信頼や平和を表しているといいます。
また、襟や袖、裾などにほどこされた刺繍の形や配置で村や部族を識別しています。そのため、コルトを見ただけでその人がどこの出身かわかるそうです。また、ベルトのボタンが丸いと結婚しており、四角いとまだ結婚をしていないことを表します。
このように、コルトは色やデザインといった見た目の美しさだけでなく、着る人のアイデンティティや社会的立場を表現する文化的意味もあるのです。
一時はコルトを着る人が少なくなってしまいましたが、現在はあらためて自分たちの文化を大切にし、積極的に身に着けていこうという若い人たちも増え、日々の生活だけでなく、特別な祭りや儀式、結婚式、ヨイクを披露するときなどにも着用されています。
サーミ族の暮らしは日本の生活とは異なるものですが、大切なトナカイに感謝し、無駄なく活用することや、季節に応じた自然の恵みを収穫することなど、サステナブルな暮らしのヒントになるようなことも多かったのではないでしょうか。
また、伝統衣装や伝統歌謡など、古くからの文化を大切に受け継いでいるのも素敵でしたね。このコラムで、みなさんがサーミ族の知恵に基づいた生活や文化に親しむきっかけになれば嬉しいです。
トナカイと関わりが深いと言えばこの人▼
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みなさんは、「サーミ族」という人々を知っていますか?
初めて聞いたという方もいれば、名前だけは聞いたことがあるけれど、どんな人々なのかよくわからないという方まで、さまざまだと思います。
このコラムでは、そんなサーミ族について、どこに暮らし、どのような言語を話すのかといった概要から、自然と密接に結び付いた暮らしや文化をていねいにわかりやすく解説します。
世界の文化について興味を持っている方や、サーミ族について知りたいという方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてくださいね。
目次
ラップランドの先住民族「サーミ族」
「サーミ族」とは、北欧(ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの北部)とロシア北部のコラ半島にまたがるラップランド(北緯66度33分の北極線より北の北極圏中心)に暮らす先住民族です。トナカイとともに季節ごとに移動して生活する遊牧民で、移動の際は「コタ」と呼ばれるテント状の住居を作るのが特徴です。
サーミ族には「サーミ語」という独自の言語がありますが、スウェーデン語、フィンランド語、ロシア語などもほとんどの人が話すことができます。なお、ラップランド地域で流れているラジオでは、一日中サーミ語でニュースや音楽が流れているチャンネルもあるそうです。
サーミ族の人口は約5~10万人と推定されており、そのうちの多くがノルウェーに住んでいるそうです。サーミの人々の歴史は古く、約1万年以上前からラップランド地域に住んでいると言われており、現在EU諸国では唯一存在する先住民族でもあります。
自然と結びついたサーミ族の手工芸
サーミの人々は、自然と密接に結び付いた生活をしています。トナカイの飼育が生活の中心で、肉・毛皮・角・交通手段として利用しています。具体的には、トナカイの肉は食用として売り、毛皮を利用して靴やバッグを作ります。また、角は木製マグカップの持ち手やナイフのさや、アクセサリー、手工芸品などに利用されます。
ちなみにサーミ人が作る手工芸品は「ドゥオジ(Duodji)」と呼ばれています。
衣服づくりや革加工、木の根を編むような柔らかい素材の工芸は女性が中心となって担う一方、トナカイの角や木を使うような硬い素材を扱う細工は男性の仕事です。
木工細工には割れにくい白樺がよく用いられています(ただし、用途によっては松や柳、トウヒなど、他の木材も使い分けられます)。
サーミの木工細工には、手のひらに収まる小物から、雪原を滑るそり「アクジャ(Ackja)」のような大きなものまであります。北部サーミのドゥオジは形そのものが美しく力強いのが特徴で、対して中央や南部のサーミでは、マグカップやスプーンなどに繊細で上品な装飾を施した作品が多く見られます。
手工芸の祭典「ヨックモック・ウィンターマーケット」
サーミ族の職人やトナカイ飼いが一堂に会する、年に一度の大規模な祭典「ヨックモック・ウィンターマーケット(Jokkmokks marknad)」。
スウェーデン北部、北極圏に位置するサーミ文化と教育の中心地ヨックモックで、毎年2月、厳しい寒さのなか開催されます。
このマーケットにはスウェーデン国内はもちろん、ノルウェーやフィンランドなど周辺国からも多くのサーミ族の人々が集い、ドゥオジをはじめ、トナカイやヘラジカの肉、チーズ、ジャムなど、サーミ族ならではの食文化も並びます。
期間中は音楽ライブやワークショップも開かれ、訪れる人々がサーミの暮らしと手仕事を体感できる貴重な機会となっています。
何故ヨックモックで開催されるの?
その起源は400年以上前に遡ります。もともとサーミの人々は冬になると、トナカイの餌を求めて森の多いヨックモックへ集まり、物々交換を行っていました。やがてその取引にロシアなどの貿易商人が加わり、トナカイの皮や肉を買い求めるようになります。
これを組織的な市場として整えたのが、1604年に即位したスウェーデン王カール9世でした。彼はこの地を教区として再編し、税の徴収やキリスト教への改宗を進めるなど、サーミの人々を国家の統治下に置く政策を行いました。ヨックモック・ウィンターマーケットは、もともとその一環として誕生したのです。
しかし今日では、その歴史的背景を超え、年に一度の祝祭として発展しています。
今では国境を越えたサーミの交流の場であり、彼らの文化とアイデンティティを世界へ発信する象徴的なイベントとして受け継がれています。
トナカイと共生するサーミ族の暮らし
夏は山岳地帯でトナカイを放牧し、冬になると平野部や森に移動して雪下の草や木の皮を食べさせるといった、季節ごとにトナカイの群れを移動させる遊牧生活をしています(サーミ族の住むラップランドの冬は、マイナス40度になることも)。
また、トナカイは単なる家畜ではなく「家族の一員」として敬われ、群れの行動や自然のサイクルに寄り添って生きることが、サーミ族の価値観や信仰にも深く結びついています。ヨイク(伝統音楽)にもトナカイを題材とした歌が多く、彼らの音楽や神話の中にも、常にトナカイの存在が息づいているのです。
このように日々の生活の中心であるトナカイとの共生が、サーミ族の知恵と文化の象徴といえるのです。
サーミ族の狩猟・漁業・採集
サーミの人々にとって大切な活動は、狩猟・漁業・採集です。
狩猟はエルクやウサギといった野生動物を捕獲し、肉は食料に、皮や骨は衣服や道具に利用します。
漁業は湖や川でサケやトラウトを捕獲し、冬になると氷上の穴釣りで魚を捕まえます。
採集は季節に応じてベリー、キノコ、薬草などを収穫しています。
こうした活動はサーミ族にとって重要な生計手段。同時に、ラップランドの限られた自然資源を持続的に利用する知恵の表れでもあるのです。地球温暖化が進む現在、サケの漁獲量が減少したり、トナカイが地表のコケを十分に食べられなくなったりと、厳しい状態が続いています。
そんな厳しい自然環境においても、季節ごとの知恵と技術を基盤として、家族が暮らしていけるように工夫しているのです。
また、手仕事は親から子へと技術が受け継がれ、現代でも文化保存や観光資源として重要な役割を担っています。
サーミ族のヨイクとは?
サーミ族には、「ヨイク」という伝統的な即興歌(またはその歌唱法)があります。
ヨイクは元々、自然界の精霊とのコミュニケーションや人々の感情を表現するために生まれました。
メロディーやリズムだけでなく、特定の対象を「表現する」手段として捉えられているのが大きな特徴です。トナカイ追いや狩猟の前後に行う儀式でもヨイクが歌われることがあります。
また近年では、ヨイクの多様性も注目されています。サーミのミュージシャンのなかには、伝統を大切にしながらも、ジャズやロック、クラブ系サウンドを取り入れたり、他のヨーロッパ音楽を取り入れたりする人もいます。
1994年に開催されたノルウェーのリレハンメル冬季オリンピックでヨイクが披露された際には、世界中に大きな感動を呼びました。
サーミ族の伝統衣装「コルト(Kolto)」
サーミ族の服飾文化の大きな特徴が、「コルト(Kolto)」と呼ばれる伝統衣装を着ていることです。コルトは女性が作るのが一般的で、銀を織り込んだピューター糸を用いた刺繍を施す場合もあります。
コルトは青・赤・黄色・緑などの鮮やかな配色が目を引きますが、性別や住んでいる地域によってデザインや色が異なります。たとえば、女性はワンピースまたはブラウスとスカート、男性はチュニックとズボンを合わせるのが基本。色については、赤は幸福や保護、青は信頼や平和を表しているといいます。
また、襟や袖、裾などにほどこされた刺繍の形や配置で村や部族を識別しています。そのため、コルトを見ただけでその人がどこの出身かわかるそうです。また、ベルトのボタンが丸いと結婚しており、四角いとまだ結婚をしていないことを表します。
このように、コルトは色やデザインといった見た目の美しさだけでなく、着る人のアイデンティティや社会的立場を表現する文化的意味もあるのです。
一時はコルトを着る人が少なくなってしまいましたが、現在はあらためて自分たちの文化を大切にし、積極的に身に着けていこうという若い人たちも増え、日々の生活だけでなく、特別な祭りや儀式、結婚式、ヨイクを披露するときなどにも着用されています。
サーミ族の知恵と文化に親しもう
サーミ族の暮らしは日本の生活とは異なるものですが、大切なトナカイに感謝し、無駄なく活用することや、季節に応じた自然の恵みを収穫することなど、サステナブルな暮らしのヒントになるようなことも多かったのではないでしょうか。
また、伝統衣装や伝統歌謡など、古くからの文化を大切に受け継いでいるのも素敵でしたね。
このコラムで、みなさんがサーミ族の知恵に基づいた生活や文化に親しむきっかけになれば嬉しいです。
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