ウユニ塩湖で知る貧富の差

南米・ボリビアのウユニ塩湖。見渡す限りどこまでも続く真っ白な大地は、時間帯によって刻々と表情を変えます。昼間の抜けるような青空との対比はもちろん、夕暮れや朝焼け時に紫色や藍色、朱色に染まっていく世界は、『絶景』の一言です。そんな絶景を目に焼き付けるため、私はウユニ塩湖に建つ塩のホテルに宿泊しました。

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塩のホテルで暮らす管理人

ウユニ塩湖に立つ塩のホテルには、住み込みで働く管理人さんがいました。管理人さんはたった一人でホテルを切り盛り!宿泊客の対応をし、料理から掃除から全てをこなすスーパー従業員でした。

先住民族で年の頃は30才前後でしょうか。管理人の男性はとても面倒見がよく、愛想がよく、お喋りも得意でした。私が訪れたときは乾季でオフシーズンだったため、宿泊客がきたのも久々とのこと。

「5日ぶりのお客さんだから、嬉しいよ!」。サービス精神も旺盛で、塩湖で遊んでいる宿泊客がいると、わざわざ出かけて行って写真を撮ってあげるくらいでした。

前回も紹介しましたが、私が宿泊したウユニ塩湖に立つ塩のホテルには、電気やシャワーがありません。塩でできたテーブルやベッドなど、素敵な調度品はありますが、鑑賞には良くても、住むとなると不自由なことがいっぱいです。

そしてホテルから一歩出てしまえば、物音ひとつしない塩湖が360度どこまでも。そんな環境の中で、管理人さんは何カ月も一人、住み込みで働いていました。宿泊客がいなければ(調理用の)自家発電機も使えず、冷たい夕食を完全に真っ暗な状態で食べることもあるといいます。

ウユニ塩湖の夜は長く続きます。日が暮れると、辺りは真っ暗。懐中電灯以外は光源がなく、お風呂に入る楽しみもありません(そもそもシャワーがない)。テレビもネットもなく、食事も缶詰だけ。真っ暗な中で、この長い夜を一体どうやって過ごすのか…。

「怖くないの?」外界から遮断された、音のしない世界で。
「怖くはないよ。でも寂しいね、だからお客さんが来てくれた日は、ついつい夜中まで喋ってしまう」

管理人さんは続けます。「君たちが帰ってしまったら、次の宿泊客がくるまで4日また完全に一人きりだ。もう一泊してったら?」。
食糧や水の補給に会社のスタッフがくる以外は、観光客が訪れてくれるのを待つだけの日々。オフシーズンは団体さんが訪れてくれることはほとんどなく、〝待つ〟のがメインになるそうです。でも、それが僕の仕事なんだ。

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チチカカ湖のほとりに立つ食堂。手前の男性陣はお客さん、奥で働く女性はみな料理人です。1テーブルで一店舗。小さなお店がひしめきあっている共同食堂のような状態です。

裕福なお客さん

夜は冷たくて硬い塩のベッドで眠りました。これが意外と寝心地が良く、動物の毛皮でできたマットも置いてあるため、寒さもさほど感じませんでした。

なかなか快適な睡眠を得られた翌朝。チェックアウトに向けて荷造りをしていると、車が止まる音がしました。なんだか楽し気な声と共に、10人前後の若者がこちらにやってきます。

不思議でした。陽気な声。ふざけているような軽い会話。ワイワイと明るい雰囲気は、そこだけアメリカやヨーロッパの一部のよう。南米らしからぬ声の主を見ようと振り返ると、思った通りそこには白人の若者たちがいました。

年の頃は10代前半~半ば。みんな白い肌をしていて、髪は金色に近い栗色、顔が隠れるほど大きなサングラスや、長い脚を強調するようなスキニーパンツ、革のジャケットを羽織った洗練された姿をしていました。どの子もファッション雑誌からそのまま飛び出てきたような出で立ちです。

「団体さんだ!」「今日泊まるお客さん?」「早くチェックアウトした方が良い?」混乱する私たち宿泊客を、管理人さんがいさめます。「大丈夫だから、ちょっと待っていて」

ファッション誌から飛び出てきたようなお洒落な彼らは、臆することなく塩のホテルに入ってきて、あっという間にリビングを占領し、お菓子やジュースをテーブルに広げます。
ガムを嚙みながら談笑する人、トイレはないのかと尋ねる人、宿泊客の私たちに構うことなくホテル内を見回る人…。テレビや映画で見るような欧米人らしい自由な行動で過ごす彼らは、やがてここには何もないと思ったのか、管理人さんの言葉通り30分もしない間に帰ってしまいました。

塩湖を見学する訳でもなく、塩のホテルの写真を撮る訳でもなく、サッとやってきてサッと帰っていく。遠目でも分かる高級車に乗って。。。

管理人さんがいうには、彼らは白人しか通えない学校の生徒で、今日は見学に来たのだそう。

なぜ白人のグループ?若いのに、凄く裕福そうだけど?ろくに見学もしないで何をしにきたの?疑問でいっぱいだった私の頭は、その言葉でパズルのピースが埋まりました。

彼らがとても裕福だということは、会話や歩き方から滲みでていました。
(電気と水がなくて)シャワーを浴びていない私たちとは大違い。水道水がなく顔も満足に洗えていない私たちとは、真逆。たっぷりのお湯を存分に使える立場の彼らはシャンプーの匂いが漂ってきそうなほど清潔でした。

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長距離バスで移動中に見た景色。植物の育たない、動物もいない、何もない広大な土地で佇んでいるのはインディヘナの女性です。これから一体どこへ…?

人種による貧困差

ボリビアには36もの先住民族が暮らしています。バックパック旅行でボリビア各地を旅する中、私は先住民族の多くが貧困状態にあるのを見ました。先住民と非先住民との貧富の差は歴然としていて、旅行者の私の目から見ても大きなものでした。

先住民族、特にインディヘナの人々は、伝統的な民族衣装と帽子を身につけていることが多いので〝見た目〟ですぐ分かります。身長は低く、肌は褐色、お化粧もしていないのに頬がほんのり赤いのが特徴です(インディヘナの身長が低いのは栄養状態が悪いからという何とも悲しい説明も…)

背丈ほどある大きな籠を背負って行商する女性、小さな子どもを背負ったまま機織りを続ける女性、見渡す限り何もない野原でバスを降りる女性(家まで一体何キロ歩くのか心配になります…)、信じられない量の荷物を抱えて一人長距離バスに乗る女性…。私がみた先住民族の女性は、みんな苦労していて疲れ切っていました。

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一心不乱に機織りをする女性。周辺では、学校に行っていてもおかしくない年齢の子どもたちが走り回っていました。

何日も洗濯をしていないであろう服、何日も浴びていないであろうシャワー…(ボリビアはとても乾燥しているので、毎日シャワーをする習慣はありません。それを加味しても…でした)。遠目で見ても伝わってくる、心身の疲れは相当なもので、エクアドルの孤児院で見た子どもたちは、清潔な服を着て栄養状態も良かったので、余計にショックでした。

後に知ったことですが、ボリビアは中南米の中でも、もっとも貧しい国の一つにあげられる国でした。特に農村地域において貧困率は94%。もちろん、農村地域で暮らすのは先住民の人たちです。1日1ドル以下で生活する人も多いと聞きます。私たちが想像する以上の貧困。

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ボリビアの大地。右奥に建っている崩れそうな建物は、住居か休憩所か…。ボロボロですが、こういった家はあちこちに建っていました。

ひるがえって非先住民の裕福さはまぶしいほどのもの。非先住民とは、かつて中南米を支配したヨーロッパ系の白人の子孫のことです。彼らは360度どこから見ても、裕福な暮らしをしていました。

都会的な雰囲気をまとい、ピカピカに磨かれた靴やバッグ、シャツを着ています。先住民の一カ月の食費より高そうなジーンズをはき、一生働き続けても買えないであろう価格の高級車を乗り回し、お城のようなお屋敷に住んでいる人々。先住民と非先住民の暮らしの差は、同じ世界・同じ国とは思えないレベルに及んでいます。

南米を旅する時、知識として知っていたこの事例。でも実際、その差を目の当たりにすると、苦々しいような苦しい思いで胸がいっぱいになりました。

生きている地区が違うから、私が知る限り非先住民と先住民の人々は、滅多に交流しません。でも、私はその場面に遭遇してしまったのです。

何かを諦めたような管理人さんの顔。その影に全く気付かず、自由気ままに振舞う白人の子どもたち。10人ほどいた白人の子どもたちは、大きくなったところで住み込みの管理人の仕事に就くことはないでしょう。同様に管理人さんは、これまでもこの先もずっと白人の子どもたちが乗っている高級車に乗ることはないでしょう。

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牛の放牧を見守る先住民の家族

どれだけ努力しても決して覆らない先住民と非先住民の壁…。生まれ落ちた家庭の差…。搾取する側と搾取される側…。

「憧れの塩のホテルに泊まれた♡」とウキウキしていた私の心が少しヒビ割れます。ホテルを去るとき、管理人さんが笑顔でサヨナラをしてくれなければ、私の心のヒビはもっと深くなっていたことでしょう。

ありがとう、管理人さん。辛い境遇だけれど、私がまた会いたいのは、人として魅力があると思うのは、白人の子たちではなく、管理人さんあなたです。

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R.香月(かつき)プロフィール画像

筆者プロフィール:R.香月(かつき)

大学卒業後、ライター&編集者として出版社や新聞社に勤務。
マイナーな国をメインに、世界中を旅する。
旅先で出会ったイスラム教徒と国際結婚。
出産&離婚&再婚を経て現在は2児の母。
公式HP:Lucia Travel

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